生き残りの解はアナログの技術

では、カメラ市場を握るレンズの製造現場はどうなのか。JR水戸駅から水郡線で約40分、常陸大宮という山間にある富士フイルムのレンズ工場に向かった。

レンズの製造は、「荒摺―研磨―芯取―コート―組み立て」などいくつもの工程に分かれるが、そのほとんどを人の手作業に頼っている。デジタル化の進展でモノづくりの中枢がコンピュータ制御に置き換わっているが、人がこれだけ作業に携わる工場風景はかなり珍しい。


茨城県にある富士フイルムのレンズ工場の内部(左)研磨剤を使って研磨されるレンズ。(右上・右下)人の眼・手によって入念にチェックされ、出荷に至るアナログな作業だ。

ここでは、外径が0.5ミリの最小径内視鏡レンズから、30センチ近いテレビカメラ用レンズまで、各種用途のレンズがつくられるが、多品種少量生産を象徴するような製造工場である。人手に頼る作業が中心になっているのは、それぞれの工程にコンピュータ制御を採り入れても、総コストで引き合わないからだ。

逆に、そこが日本的なモノづくりの強みになっているようで、樋口は「ここでは“拭き3年”という言葉が残っているほどですから」と笑いながら話した。これは、製造工程の途中でレンズの表面に付いた油の汚れを、人が手で取り除く作業が発生するが、その“拭き”の感覚を習得するまでに最低3年はかかるという。

うなぎの蒲焼きで一人前になるのに、「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」という言葉があるが、レンズの製造もそれに似た職人技がものをいう世界である。レンズ職人の世界には技能検定が用意されているが、いわゆる一人前の1級に受かるまでに、技能と筆記試験合わせて最短でも12年の年月がかかるそうだ。

そうした職人技の極致ともいえるレンズの製造だけに、まだまだ日本のモノづくりの強みが残っている。その点が、レンズの良さを売りにする一眼レフ、ミラーレスの分野で、日本メーカーが世界シェアの大半を占める要因になっている。