画像診断、内視鏡、医薬品で攻める

北に富士、南に天城の山々をのぞむ丘の上に立つ、静岡県立静岡がんセンター。日本でもトップクラスの医療体制を誇るがんの専門病院だが、ここで富士フイルムが医師と共同開発した画像診断システムが内外から注目を集めている。

静岡がんセンター画像診断科の遠藤正浩部長。

「ほら、このギザギザをご覧なさい。これが、肺がんかどうかを見分けるひとつの判断材料になるんです」

肺を輪切りにした白黒の画像を見ながら、遠藤正浩医師(画像診断科部長)が指し示す部分を凝視すると、星のような形をした灰色の模様が確認できる。がんの中でも肺がんは、がんかそうでないかを見分けるのが最も難しいといわれるが、9割超の確率で正しい判断ができるまで精度を高めたところに、この画像診断システムの斬新さがある。

富士フイルムと静岡がんセンターは、05年2月に共同研究契約を結び、約7年の歳月をかけて同システムを完成させた。肺を写したCT(コンピュータ断層撮影)検査の画像を読み込み、がんと疑われる部分を医師が指示すると、人工知能が形状や白黒の濃淡を分析する。

静岡がんセンターで過去に診断した約1000の症例から、特徴が一致する肺がん患者の画像を選び出し、それらと比較することで診断ミスを限りなく減らすことを目指している。「類似症例検索システム」と名づけられたこの画像診断システムは、12年10月に発売されるが、最初から開発に携わった放射線診断医の遠藤は、同システムの先進性をこう語る。

富士フイルムHD 取締役常務執行役員
メディカルシステム事業部 
玉井光一

「胃がんや大腸がんはカメラなどによって直接見ることができますが、肺がんは影を見ることによって判断しなければならない難しさがあります。しかも、白黒の影の濃淡は2000の階調にも分かれていて、がんなのか、それとも炎症なのかを見分けるのが非常に難しい。その点、このシステムは過去の画像をデータベースで補強しています。似た症例を引っ張ってくることで、確信を持って判断を下すことができるようになりました」

この開発を支えた富士フイルムの玉井光一取締役常務執行役員・メディカルシステム事業部長は、医師への診断支援の観点からこんなメリットを強調した。

「医師は断層撮影の画像データを全部見なければなりませんが、本当に見たいのは悪いところだけなんです。そこで医師に読んでもらう情報を“絞って”あげて、的確な判断をしてもらうために開発したのが、この診断支援システムです。遠藤先生からは『優秀な画像診断技術者がそばにいてくれるようなもの』と褒めていただきましたが、これも富士フイルムがフィルム時代から一貫して、画質を追求してきたからできたと自負しています」