製品に価値を見出すプロセスに注目する

Sカレにせよユーザー参加型製品開発にせよ、協力する企業側から見た際の魅力は、ユーザーが開発に携わり、画期的なアイデアを提供してくれるかもしれないということであろう。しかし、この点に期待する限り、先のような問題がつきまとうことになる。そこでもう一つの魅力として、ユーザーが開発とともに同時に販促にも関わることによって、一ユーザーとして口コミを広げたり、協力者を他に広げたりしていく活動に期待するのはどうだろう。

Sカレで行なわれるサイト上の販促活動は、つくり手の活動であるとともに、買い手としての活動でもある。通常は、企業が製品サービスを開発し、その後で別途販促を考える必要があったが、Sカレやユーザー参加型製品開発では、2つの活動が同時に行われることになる。考えてみればあたりまえだが、こうして開発と販促が同時に進められるというプロセスには、先の2つの課題をまとめて解決するヒントがあるようにも感じる。

例えば、Sカレに実際に参加していて感じるのは、企画の良し悪しとは別に、学生たちが最初につくるサイトのデザインは総じて平凡で読みにくいということである。しかし、1、2週間で見違えるほど見やすく、また面白いものに変わっていく。具体的なつくり方がわかってくるということもあるが、それ以上に、他のサイトと見比べながら、自分たちのサイトがいかに見にくいか、ひいては自分たちの企画が評価されないのかということに気づくからだろうと思われる。逆に言えば、最初の段階では、そうした見せ方の重要性をあまり意識していないし、意識していても、どういうものがみやすいのかということについて思いが至っていない。

マイナビにおいても、この点は何度か強調して学生に伝えてきたという。企画そのものが大事なことはいうまでもない。けれども、多くのユーザーは最初からじっくりとその企画を読んでくれたり、調べて評価してくれたりするわけではない。初見で、あっ!とか、おっ!と思える感覚があってこそ、はじめてその企画の中身にも興味を持ってくれる。

マーケティングとして重要な点であろうと思う。製品そのものに最初から価値が内在しているのではなく、マーケティングのコミュニケーションを通じて、製品に価値が新たに見出されるのである。製品開発というと、どうしても製品そのものをつくりこむプロセスに目がいきがちだが、ユーザー参加型製品開発という点では、開発活動や企画活動が販促活動と区分されずに同時に進められることにより、製品そのものの価値だけではなく、合わせて製品に価値が見出されることの重要性が認識される。思いきっていえば、サイトの良し悪しは、そのまま商品企画の良し悪しと連動しているのである。

もちろん、こちらも実際には難しい話で、結局ほとんどの商品企画は価値を見出されずに消えていく。この過程そのものは、たくさんの製品が毎日のように開発され、しかし残っていくのはごく少数という多くのビジネスの現場と同様である。そういう意味では、ユーザー参加型製品開発だからといって、Sカレだからといって、必ずいい企画が生まれてくるというわけではない。もっと価値を見出す過程の改善を進める必要があるだろう。