今こそ、オール・ジャパンで東北地方の復興をする必要があるだろう。

現在、44万人の被災地避難者が出ている。この人たちをすべて生活保護で支援するとすればどれくらいのコストがかかるのか? 現在の生活保護者約200万人(約197万7000人)。支給総額は3兆72億円である。つまり、44万人で6600億円増になる。これは1年間だけの支出である。生活保護で支援し続けるのは、財政的に不可能である。

また、「人はパンのみで生きるのではない」。重要なのは「生きる希望」である。

もし東北地域の拠点である仙台市に首都機能を移転すれば、宮城県だけでなく、被災を受けた主要な地域である福島県および岩手県は活性化されることになる。仙台は地政学上、東北地域のかなめとなる立地条件にある。仙台駅は、東北新幹線・東北本線・仙山線が通っている。

東京から1時間50分、福島駅から26分、盛岡駅(岩手県)から44分、一ノ関駅(岩手県)から31分である。つまり、仙台を拠点にすれば、福島や盛岡はベッドタウンとなれるのである。千葉や埼玉、横浜が東京のベッドタウンとなっている状況を考えればよい。

また、東北地方は、まだまだ開発の余地がある。例えば、仙台と隣接する山形県山形市には鉄道では快速で77分もかかる。これまで、どれほど東北地方がなおざりにされていたかがわかる。

では、首都機能を移転できるだけの土地と財政余地があるのか? 東北地方は国有林の宝庫である。

各地方の総土地面積に占める国有林野の割合

各地方の総土地面積に占める国有林野の割合

仙台も国・公有林に恵まれている。仙台市だけで、国有林(188平方キロ)・緑資源公団(13平方キロ)・公有林(39平方キロ)と200平方キロ以上は、公有林(国有・公有林)なのである。これは、東京23区の3分の1の面積にあたる。つまり、森林開発を進めれば、土地はもともと国あるいは宮城県のものであるので、土地収用費用がかからない。今こそ、国は国有林を提供すべきである。仙台は、なだらかな山々に囲まれ、温泉地も多い豊かな都市である。

首都機能移転とは、つまりはアメリカの例でいえば、現在の東京を商業と芸術の中心ニューヨークにして、政治都市のワシントンを仙台にすることであり国会と霞が関だけでも移転するということである。しかしながら行政・政治に携わる国家公務員や政治家は、住居や事務所を移転せざるをえず、かなりの人口移動となる。当然、多くの雇用がうまれる。希望と働く場を提供できるわけである。

被災地の人にとっては、移り住むことなく、生まれた土地で、職場を得て、子孫を残していく、という希望が得られる。

また、今回の震災による電力不足で、計画停電が実施されたことによる東京の混雑・混乱ぶりは想像を絶するものであった。これは、東京の一極集中が震災などの予期せぬリスクにいかに脆いかを露呈した。

つまり、仙台への首都機能移転は、(1)被災地の復興、(2)東北地方の活性化、(3)首都機能の移転によるリスクの分散化、(4)地方の財政コストの緩和など、一石二鳥どころか三鳥、四鳥にもなる。

さて、ここで首都機能移転の問題を今一度、歴史的に振り返っておく。国土交通省は2011年の組織改正で、首都機能移転問題の担当課を廃止する。

そもそも、首都機能移転の本格的な検討が始まったのは、1990年11月の国会決議がきっかけであり、90年代に盛り上がりを見せたが、その後の経済情勢の変化などを受け、国の議論は停滞。関連予算も年々縮小していった。

移転先候補としては、(1)北東地域の「栃木・福島」、(2)東海地域の「岐阜・愛知」、(3)近畿地域の「三重・畿央」などが挙げられていた。

巨額の費用を伴う移転プロジェクトに慎重論が続出し、04年12月に国会等移転両院協議会が、「国会等の移転に関する特別委員会」で、「移転は必要だが、3候補地の中でどの候補地が最適なのか、絞り込めない」という形で中間報告を採択した。この決議は事実上の凍結宣言となった。

しかし、今、東北被災地の早急な復興は、日本国民全体の強い願いであろう。

「移転が必要である」と認識されているのであれば、霞が関のビルを東北では費用がかからないプレハブ造りにしてもよいではないか。移転先候補としては、(1)北東地域の「仙台」に決められる好機であろう。移転問題を再び表舞台に戻す秋(とき)である。

※すべて雑誌掲載当時