「定点観測をしていれば景気が読める」「10分あれば報道の真相がわかる」震災の復興シナリオから企業の大型合併、不況下で高い利益率を誇る業界の仕組みまで、世の中の事象を正しく見るコツを数字のプロが解説する。

数字に慣れると世の中が見えてくる

「景気が上向いてきた」「かなり売れています」「だいぶ売り上げが落ちている」など、感覚でモノをいう人が世の中には大変多い。しかし私の場合、それを鵜呑みにすることはありません。「かなり」って具体的にいくらかと思うからです。自分で数字を見ないと信じないことにしています。

感覚的な表現に行き当たって「本当かな?」と思ったら、数字で確認する。景気指標も企業の業績も、いまはネットで簡単に取ることができます。数字を見ながら一つの仮説を立てて、それを検証するために、さらに詳しい数字を追いかけていく。

数字をチェックするというと、特別な能力が必要なように思われるかもしれませんが、大切なのは数字に慣れることです。日経新聞に載っている景気指標のようなマクロの数字と、自分の会社や投資している会社の財務諸表などのミクロの数字を継続的に見る。そして交互に見比べる。するとわかってくることがたくさんあるし、疑問に思うことも出てきます。

数字力は、全体を把握する「把握力」、具体的に物事を考える「具体化力」、そして目標を達成する「目標達成力」という3つの力に分けられると私は思っています。

数字力が身に付いて数字のハンドリングがうまくなると、世の中がより具体的に見えてくる。数字を通して、私が世の中の事象をどう見ているのか、一端をご紹介しましょう。


 

MBO(Management Buy-Out)とは経営陣や従業員が自社株を買い取ったり、事業譲渡を受けて会社の経営権を手に入れることです。MBOで経営権を握り、上場廃止で株式を非公開化するのは、従来は敵対的買収からの防衛策とされていました。しかし06年のワールドの上場廃止を皮切りに、経営のフリーハンドを高めたいという意味合いから、上場の意義を問い直し、MBOによる上場廃止を選択するケースが近年は増えてきました。

上場しているとさまざまな制約があります。まず株主に対しては短期的に利益を出さなければならない。アパレルの雄といわれる優良企業のワールドが上場廃止に踏み切ったのは、投資家が求める短期的な利益よりも、新規事業や新しい形態の店舗開発など中長期的な企業戦略に注力したかったからです。