中間路線を歩む

新任マネジャーは、学ぶことと同時に教えることもやっていかなくてはいけない。具体的には、自分のマネジメント・スタイルや自分が部下や同僚や上司に期待することを伝えていく必要があるわけだ。この情報が、新しいポジションで成功するためにきわめて重要な建設的な人間関係の基盤になるのである。しかし、このような早い時期のコミュニケーションは、バランスのとり方が難しい。コミュニケーションが多すぎると危険な場合があるし、少なすぎても害になることがある。

「多くの人が就任後のコミュニケーションを急ぎすぎて、自分で自分の手足を縛ったり、とうてい果たせないような約束をしてしまったりする」と、ベアは言う。

逆にコミュニケーションが少なすぎると、新リーダーに対する部下の認識をコントロールできないという問題が出てくる。

「最初の1カ月間に伝えるべきことは、なによりもまず、自分はどんな人間で、なぜここに来たのかということ、そして組織や部下に何を期待するかということだ」。こう語るのは、『Right from the Start: Taking Charge in a New Leadership Role(スタートのときから:新任のリーダーが成功するには)邦訳なし』の著者(マイケル・D・ワトキンスとの共著)で、多くのトップ・リーダーのアドバイザーを務めているダン・シアンパだ。

新リーダーは中間地帯を歩むべきだと、彼は提言する。自分の仕事のやり方と自分が組織や部下に何を期待しているかは、最初の数週間のうちに伝える必要があるが、重要な課題についての約束は完全な情報がそろうまで先延ばしにすべきだというのである。

ルー・ガースナーは、適度なコミュニケーションに成功した好例と言えるだろう。1993年にIBMのCEOに就任したとき、彼は会社の内外から、新CEOのIBM再建計画を明らかにせよという大きな圧力を受けた。しかし彼は、「それには時間がかかる」と言って、重要な決定を発表することを拒否した。

その代わりに彼は、自分の仕事のやり方を伝えることに全力を傾けた。IBMの会議は昔から長いことで有名だったが、彼はただちに会議の時間を短縮した。また、各事業部門のマネジャーに各自の組織、顧客、市場、主な競争相手、自分たちの強みと弱みについて短い査定を作成せよと指示することで、情報収集に絡めて自分の仕事のやり方を伝えた。

マネジャーたちは、ガースナーの頭にある「IBMはオープンかつ率直で、単刀直入な組織にほかならない」というメッセージを早々に受け取ったのである。