会社が倒産しなくても退職金はアテにならず

もっとも深刻なのは、勤務していた会社が倒産になったケースだ。状況次第では、退職金が支給されないことすらある。

「これでは、生活がボロボロになる。相談を受けた40~50代で、首都圏に住む人たちの住宅や車のローンの支払いは、月に平均13万円前後。これだけの出費がありながら、退職金が出ないようでは生活が成り立たない。とりあえずは“背水の陣”で働き、老後はなんとかなると思うしかないのではないか」(藤川氏)

この状況に陥った場合は、生活が苦しいために不利な労働条件とわかっていてもそこで働く傾向がある。最近は、非正社員になるケースも目立つ。年収は400万円台が多く、手取りにすると、300万円前後になることすらある。50代で転職し、正社員になれる人は非常に少ない。

藤川氏は倒産の憂き目に遭わずとも、退職金の認識を変えたほうがいいという。現在、大企業の60歳定年の際の退職金の相場は、2000万~2500万円といわれている。2009年に、日本経済団体連合会が発表した調査結果では、「標準的に進学し、学校卒業後直ちに入社し、その後標準的に昇進・昇格した者」が60歳で定年退職した場合の退職金は、総合職・大学卒で2417万円だった。(「『2008年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果』の概況」)

この額が今後、3分の2くらいの額にまで落ち込むことがありうると見ている。「今、60歳の定年退職時に3000万円をもらえる会社も、10年後には2000万円になる可能性がある。このくらいに下げないと、積み立て不足の問題を解決できない」(藤川氏)。

多くの大企業が長引く不況と膨れ上がる人件費のために退職金の積み立てが足りない。この十数年の間にポイント制や前払い制度の導入などで改革を行ってきたが、依然として解決していない。

大きな理由は、現在の退職金制度や年功序列型の賃金制度が、企業の売り上げが年を追うごとに増えることを前提として出来上がったものであるからだ。いまのままの制度を維持して今後を乗り越えることはもはやできない、ということだろう。