一方、最近のチェーン系居酒屋における明朗会計は、契約を重視する欧米型の考え方といえるかもしれません。欧米の法律には大陸法系と英米法系があります。日本の契約概念は大陸法の考え方をとり入れたものですが、英米法は契約において当事者の“意思”を重視しています。

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お通し代を払うべきかどうか

「○円で月をとってくる」というような絶対無理な話でも、一度契約で合意したら履行する責任が生じます。そして月をとってこれない場合は損害賠償を請求されてしまう。英米法では、「月をとってくる」という行為がそもそも無理であるから契約として成立しない、という判断はされないのです。双方が納得ずくであれば、中身がどうあれ契約は成立する。

このように合意が重視される欧米では「お通し」のような注文していないもの、つまり契約していないものが勝手に出てくることはないのです。

また、法律は理屈だけではなくて、バランスで成り立つものです。関西の一部地域に「敷引」という慣習があります。賃貸住宅の退去時に敷金を返す際、一定額を差し引く契約条項で、家賃のおよそ3、4カ月分になることが多く、関東の礼金よりかなり高めです。

これが消費者にとって不当に重いとして裁判が起こされ、高裁などで「敷引は違法である」という判決が出ていたのですが、11年7月、最高裁で「ケースによっては敷引特約は有効」とする判決が下されました。

敷引として多くとっていても、地域性などを考慮すると、そもそも家賃自体が相対的に安くトータルの賃料として違法性はないとみなされたのです。法的判断で関西の慣習が重視されたわけです。

これはお通しでも同じで、店の場所、雰囲気、接客などを考慮して、お通し代をとって当然か否か、そのバランスで考えるわけです。法律は様々なことが起こる人間社会に当てはめるもの。ですから常識的な基準に比して違法かどうかが柔軟に判断されるのです。

とはいえ今の日本は、なんでも価格を明示する形式に収斂されてきています。そのうちお通しどころか水やお茶まで価格が決まって、おしぼりすら注文しないと出てこない日がくるかもしれません。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=田中裕康)
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