わかりやすい例が、牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーの戦略だろう。牛丼チェーンのトップの座は、長らく吉野家HDが守ってきた。しかし、2008年に店舗数で、09年度には売上高で吉野家を抜き、ついにすき家が最大手になった。

すき家が消費者の心をつかんだ直接の要因は、徹底した値下げで価格競争に勝ち抜いたこと、そして豊富な品揃えにあるといわれている。しかし、そこだけに注目しても、すき家が躍進した本当の理由は見えてこない。「価格」や「製品」は、あくまでもSTPで打ち出された戦略を実現するための手段にすぎないからだ。

では、すき家が打ち出した戦略はどのようなものだったのか。

すき家の勝因は、市場を従来の牛丼市場に限定せず、他の外食市場、さらに近年成長している中食(弁当や惣菜)市場まで含めてセグメンテーションしたことにあると私は考えている。

牛丼チェーンの顧客層は、男性1人客の占める割合が圧倒的に大きい。しかし、男性1人客の数は限られており、それを他社と取り合いしたところで成長には限界がある。そこで従来の牛丼チェーンの利用者に限らず、気軽・手軽に食事したいと考えている人はみな顧客になる可能性があるという発想で、市場を大きく括り直したのだ。

その結果、未開拓の顧客層が浮かび上がってきた。そこで同社は、「ファミリー層」と「女性客」へターゲティングを広げる戦略を取ったと考えられる。

ファミリーの外食はファミレスが定番だったが、節約志向の強まりでファミレス離れが起きている。だが、外食へのニーズが減ったわけではない。ファミレスのような楽しい雰囲気で、なおかつ値ごろ感のある店があれば、外食へのニーズは高まるはずだ。