異常事態に対応が遅れるのはなぜか

国際通貨基金(IMF)元チーフエコノミストのケネス・ロゴフ・ハーバード大学教授とカーマン・ラインハート・メリーランド大学教授の著作“This Time is Different: Eight Centuries of Financial Folly”(『国家は破たんする-金融危機の800年』(日経BP社))をご存知でしょうか。『国家は破たんする』という刺激的な邦題がつけられていますが、直訳すれば、「今回は違う」です。人は、「今回(だけ)は違う」という思いこみに囚われ、結果として、常に同じ過ちを繰り返してきた、というのです。

同様のことは、国家のみならず、企業内でも頻繁に繰り返されています。そこで今回は、なぜ人は過ちを繰り返すのか、なぜ危機への対応が遅れるのか、について考察してみることにします。

「ノーマルシー・バイアス」。社会心理学や災害心理学で使用される心理学用語で、多少の異常事態が起こっても、それを正常の範囲内としてとらえ、心を平静に保とうとする働きのことです。「正常化の偏見」、「正常への偏向」、「日常性バイアス」とも呼ばれています。この働きは、人間が日々の生活を送るなかで生じる様々な変化や新しい出来事に、心が過剰に反応し、疲弊しないために必要な働きだといわれています。

しかし、この大切な働きも、「度」が過ぎると、非常事態の際にもそれを異常と認識せず、対応が遅れる結果を招くことになるのです。実際、避難が必要となった人々や避難を誘導・先導すべき立場の人たちにノーマルシー・バイアスが働いたため、被害が拡大した災害は多いそうです。津波警報のサイレンを聞いて多くの人が取る行動は、「テレビをつける」が90%にも達し、「即座に高い所に避難」するのは僅か10%だそうです。