私は柳井さんと会って、非常に科学的な頭脳を持った人だと思いました。それまでファッションビジネスとはアートのような手仕事の世界だと思っていたんです。ところが柳井さんが手がけていたファッションビジネスは高度に産業化されたものだと知りました。シーズンごとに流行を追い求めるのではなく、ベーシックな素材と柄をきちんと品揃えする。デザインはニューヨークでやり、生産は中国を基地とする。全体をマネジメントするのがユニクロ……。柳井さんの説明を聞いてユニクロという会社の本質がすぐにわかりました。柳井さんがファッションビジネスを本当の意味で産業にしたんじゃないかな、と。大げさですか?

柳井 はは。僕は孫さんから本をもらったのを覚えている。『シリコンロード』(小平尚典著)という本です。それとテレホンカード。孫さんがゴルフでパープレーを達成した記念のカードで、本人の写真がアップで載ってるやつ。いただいた本はいい本でしたけれど、テレホンカードはどういう意味なのかなと、ちょっと、ねえ(笑)。

いずれにせよ、僕はあのとき以来、孫さんのことをずっとライバルで同志だと思っている。だから、ソフトバンクがやることについては絶対に成功してもらいたい。ファッション業の経営者から学ぶことよりも、孫さんから学ぶことのほうがたくさんある。

ボクサーにとって試合を観てくれた人はファンなんです

 柳井さんは何事も一貫している人です。社外取締役として我々の会社が注意するべきことについては常に指摘し、応援するときは明確に声を出してくれる。経営者としての柳井さんに感じるのは安心感です。見ていて安心する経営をされている。

柳井 僕は反対で、孫さんのやってることをいつもはらはらしながら見ている(笑)。孫さんは常に時代を先取りして、会社の中身を変え、そして進化させている。いちばん最初は翻訳機でしょう。それからコンピュータゲーム、PC-LAN、インターネットへの投資、現在やっているブロードバンドや通信への進出。これほど見事に変化している経営者はいない。時代の先を読める人間でないとできない仕事です。そして、自分の先見性にすべてを賭けている。そういうのが本当のベンチャー経営者じゃないかな。