ねじれを前提に政権を担った野田は、就任当初から逆転の発想に立ち、参議院での多数勢力の結集こそ政権継続の必須条件と見抜いていたのではないか。消費税増税を掲げ、増税法案をてこに参議院で多数派を結集する。その枠組みで政権をつくればねじれを克服できる。

細川内閣、羽田内閣、鳩山内閣で財務相を歴任した藤井裕久・民主党税制調査会長。

野田は将来の政界再編も展望して大仕掛けの戦略を構想し、就任後、実行に移していった可能性がある。だとすれば、与党内の増税反対勢力との決別、民自連携、その後の連立組み替えも視野に入れて、増税法案を準備したことになる。

就任以来、党内融和を唱え、八方美人型ののらりくらりの政権運営だった「どじょう首相」が、大仕掛けに向けて舵を切ったのは11年12月29日であった。民主党の税調、社会保障と税の一体改革調査会の合同会議の総会が開催された。反対派が激しく抵抗する中で、野田は消費税率の引き上げ時期を当初案から半年延期する譲歩案を示して正面突破を図る。自ら押し切った。

総会は消費税増税を含む税制改革案を了承した。政府は翌30日に社会保障と税の一体改革の素案を決定した。

野田の後見役で、増税案の取りまとめの中心だった党税調会長の藤井裕久(元財務相)がその場面を述懐する。

「私は野田さんに、『多少、人がこぼれるかもしれないが、いいですね』と言った。それに対して、野田さんは否定しなかった。それは自民党との関係というよりも、民主党がもう少しスキッとすることが自民党に対しても意味を持つ。本当の意味の党内融和にも役立つ。その意味でターニングポイントだったと思う」