百貨店や駅構内を中心に約300(国内)の靴修理スタンドを展開している。各拠点の従業員は1~2人。彼らを動かすために意識しているのは、軍事用語でいう「号令」または「命令」型のコミュニケーションをとるということだ。

号令とは、準備を進めてきたことに対して最終的なゴーサインを与えることだ。これに対して、ある拠点を攻略せよというのが命令、状況を見て勝てそうなときは攻めよというのが「訓令」である。

日常的に同じような仕事をこなしている人たちには、号令、命令が馴染む。社内向けの情報伝達はつねにこちらである。給料袋に短文のメッセージを入れたりする。

社長に就任した1999年、当社は業績低下が何年も続き、ついには赤字に陥っていた。不採算店のリストラを含む大改革が必要だった。リストラ対象を決める際、本来なら利益を基準にするべきだが、複雑になりがちだ。私は誰にでもわかりやすい基準を設けることにした。年商4000万円、2000万円、1000万円を区切りとし、直接指導する店、改装などの手を加える店、閉店もしくは業務委託に切り替える店に分類した。それにより社員の納得を得ることができ、業績は急回復した。

難しいのが訓令だ。相手に自主的な対応能力が必要だからだ。選ぶ相手を見誤ると、組織に混乱をもたらす。

社長に就任して間もないころ、英国本社から2カ月ごとに上司が来日していた。上司は私に問題点と解決策の提示を求め、私の報告を聞いては内容をメモに書きつけていった。次回の来日時に、メモをもとに一点ずつ確認するのだ。

それにいちいち、「終わった(done)」と答えていく。半年ほどで口頭試問は終わり、チェーンストアの大事な戦略である出店に関しても事後承諾で済むようになった。実力を認められたのである。

いずれの場合も、結論を先に伝えるのが大原則。表現をできるだけ平易にし、盛り込む要素も3つまでに絞る。さらに私の場合、3つのうち2つは、現場の従業員が見聞きしたことのある事柄と決めている。人は理解できないことには拒否反応を示す。すんなり号令、命令、訓令を届けるには、受け手の共感を得られるかどうかも計算に入れなくてはならない。