僕の職場である吉本新喜劇には、お笑いに精通した後輩思いで優秀な先輩しかおりません。だからアホな上司についての話なんて全くない……はずなんですけど、どういうわけか心当たりがないこともないので、僕なりの体験を語らせていただきます。

吉本新喜劇座長 小籔千豊氏

振り返ると僕の考えたアイデアを先輩が「それええやん」とあたかも自分のものとして使うようになったり、「こうしたらウケるから」と明らかに間違ったリードをされて、舞台でスベらされてしまうことがありました。新喜劇の世界で座長というトップを目指して少しずつ点数を積み上げていく中で、たとえ上司の指令であれスベってしまえば何十点もマイナスになるわけです。こんな迷惑な話もありません。でもそこで「おまえの言うこと聞いたらこのザマや。なにしてくれんねん!」と突っかかるのは間違っていると思います。

というのも悪い上司が“病気”だとしたら、直接対決する方法はそのときスッキリするかもしれないけれど、それって抗生物質で副作用が必ず出てくるんです。その様子を見ていた周りには「あいつは激情型で先輩に食ってかかる困ったヤツ」という悪いイメージが残って、結果いいことがない。困難に遭遇すると、人は逃げるかやっつけるかしたくなるもんです。でもたとえばアホな上司・A型を叩いても、たいていの場合、次にアホな上司・新型が襲ってくるわけじゃないですか。対症療法じゃダメなんですよ。

ではどうしたらいいかというと、即効性ある劇薬でねじふせたくなるのをぐっとこらえる。そして食事から変え、生活習慣から変え、どんな型がきても耐えうる体づくりをすることで、“病気”とうまくつきあっていく。つまりアホな上司に変革を促すのではなく、自分を強くして解決するんです。

僕の場合、「自分だけがひどい目に遭っている」という状況にとらわれないように努めました。「こうしてスベったのはみんな経験したことや。もっと過酷な状況でもっとひどい仕打ちを受けた人もたくさんいる。なに自分だけ悲劇のヒーローになってんねん!? 」と考えるようにしたんです。