1つには、自分が優秀だから他人に任せるとまどろっこしい。それで、勘所にくると、自ら乗り出して受注に持ちこんでしまう。教えるヒマがないのである。

ところが、最近はここに別の事情が加味され、より面倒なことになっている。年功序列が守られた牧歌的な時代とは違って、場合によっては後輩が自分を追い抜くかもしれない。できる部下なら、ライバル会社に引き抜かれる恐れもある。

だから、勘所での契約の取り方など「虎の巻」的な知恵を簡単に授けてしまうわけにはいかない、と考えてしまう。よほど忠誠を誓わせている相手でなければ、肝心のことを教えないようになっているのだ。教える技術を持たず、そのためのヒマもなく、警戒心が働くので教えるつもりもない。“急落種族”の4は、「三重苦上司」である。

このような問題はすべて成果主義に起因している。そのことにいち早く気づいたのがトヨタ自動車である。

トヨタはちょっと前に成果主義を導入したが、わずか1年半で元に戻すという英断を下した。

従来は課長昇進の条件が「個人の成果」5割に対し、「育成」5割の比率だったが、それをいったん7対3に変えたのである。ところが変えたとたんに、社員たちが育成をないがしろにし始めた。つまり、そのままでは人が育たなくなるということだ。

そのことに強い危機感を抱いたトヨタは、課長昇進の条件を従来の5対5の比率に戻したのである。

そもそもトヨタには「自分を凌駕する部下を育てよ」(豊田英二元社長)という考えが脈づいている。社訓であるトヨタウェイ2001の「行動基準」にも「部下があなたに挑戦して、あなたの作った業務プロセスを改善するような風土を作ってください」とある。

この言葉は非常に重要である。