恋愛はしても結婚はまだまだ?

もう一点とりあげたいのは、恋愛についての言及です。

「こと恋愛に関するかぎりは、20代がその黄金時代なのではないでしょうか。(中略)『あのときに告白しておけばよかった』という後悔だけは残してはいけません」(大塚20、194p)
「その人と一緒にいられたら死んでもいいというぐらい、一人の人を好きになれるかどうか。これこそ、20代にしかできないことだといってもいいかもしれません。まだ結婚まで考えなくてもいい……相手のことが好きだというだけでいける年代が20代なのです」(本田20、59p)

このように、情熱的な恋愛が20代のハイライトとしてしばしば語られているのですが、結婚までは論じられることがありません。厚生労働省の『人口動態統計』によれば、2011年時点での平均初婚年齢は男性30.7歳、女性29.0歳ですから、20代で結婚を論じることは必ずしも時期尚早ではないはずなのですが、「年代本」においては、結婚は20代の(今回扱う著作はいずれも男性の手によるものなので、少なくとも20代男性にとっての)課題ではないようなのです。川北義則さんはより直接的に「自分なりの結婚観を早く確立しよう」(川北20、166p)として、20代で行うべきことは「結婚観」の確立でよいと述べています。

また、恋愛論に関してもう1つ興味深いのは、恋愛と仕事の充実がしばしば一直線のものとして考えられていることです。たとえば「伸びる20代は、名もなく貧しい20代のころからモテる。異性が放っておかないのだ」「結果として、同期のマドンナと一度は交際することになるわけだ。これは偶然ではなく必然である」(千田20b、122-3p)というようにです。

ことの真偽は確かめようもありませんが、いずれにせよ言えるのは、成功者が仕事のみならず人間性のあらゆる面における勝者とされる二分法的思考がとられているということはできます。前回テーマの「心」関連書籍でも、自己啓発書が世の中を二分法で分けがちである傾向について指摘しましたが、パターンはさまざまにあれど、二分法は自己啓発書一般に通底するスタイルであるようです。

さて、ここまでは基本的な共通点を論じてきました。次回は、20代論を引き続いて素材にしながら、「年代本」が各年代の生き方をただ論じるばかりの書籍ジャンルではないということを考えてみたいと思います。

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