まず、内容の意外さに驚いた。てっきり政治関連の本だと思っていたら、ビジネス書だった。

読み進めながら、何度も膝を打った。選挙公示後の第一声といえば、どの政党の幹部も東京駅や新宿駅といった大群衆が集まるところを選ぶ。しかし、小沢一郎は鳥取の過疎地であったり、農家のビニールハウスであったり、聴衆がわずかしかいないところから遊説を開始する。

2006年4月の衆議院千葉7区補欠選挙のときもそうだった。当時の自民党は飛ぶ鳥を落とす勢いで、小泉純一郎首相(当時)が現地に乗り込み、群衆が集まる松戸市の大手スーパーの前や野田市役所の前で、大型選挙カーの上で有権者を見下ろす形で応援演説を行った。

一方、民主党代表になったばかりの小沢氏が同じ日に選んだ舞台は、千葉県最北にある田舎町の関宿町。ビール箱の上に立って200~300人を相手に演説した。2度目の選挙地入りは中ぐらいの規模の流山市で、民主党候補とともに自転車で回りながら遊説。3回目の現地入りでようやく人通りの多い新松戸駅前を講演の会場にした。そして、民主党は勝利した。

本書はこうした小沢氏の選挙戦術はビジネスにも通じる、と論を下した。私は思わずうなずいた。そして、中国で毛沢東がかつて国民党との内戦に使った「農村から都市を包囲する」戦略を思い起こした。当初、勢いのよかった国民党が大都市や地方都市を押さえたのに対し、毛沢東は辛抱強く農村の小さな村や町を基盤とした。最終的には、毛沢東率いる共産党軍が都市部に進撃、国民党を追い出した。

今、中国ビジネスの現場でも似たような光景が見られる。日系企業が懸命に都市部の市場を押さえようと努めていたとき、力の弱い中国の地場企業や台湾系企業は農村の小さな村や町で次第にシェアを拡大していった。そして、いつの間にか日系企業は劣勢に立たされていた。

例えば、中国のファストフード市場(中華料理系を除く)の上位5社を見ると、北京ではケンタッキー、マクドナルド、ピザハット、origus(米資本)、吉野家となる。しかし、中部にある河南省鄭州市に行くと、1位のマクドナルドに続くのはDicos(徳克士)という台湾系の企業だ。全国のランキングでも4位と侮れない存在感を見せる。残念ながら、吉野家はそこにはいない。09年6月、Dicosは山東省の泰安市に1000番目の店舗をオープンした。地方都市からいよいよ全国市場を制覇しようと着実に歩を進めている。毛沢東戦術の現代版であるが、小沢流の選挙戦術とも相通じるものがある。

大都市しか見ていなかった日系企業は、多くのビジネスから撤退を余儀なくされた。テレビしかり、携帯電話しかり。薄型テレビや小型乗用車の分野でもその二の舞いを踏む恐れがある。中国ビジネスを考えなおすときには、ぜひ本書を勧めたい。