乳ガンによる死亡者数が、毎年着実に増え続けている。1990年は5848人だったのが95年は7763人に、そして2001年は9654人と、このままでいくと1万人の大台に乗りかねない。また、アメリカでは年間18万人、日本でも毎年4万人に乳ガンが見つかっている。

乳ガンでは、かつては胸の筋肉まで切除してしまう「ハルステッド式」が当然のごとく行われていた。しかし、今日では、ほとんどが「胸筋温存乳房切除」と「乳房温存療法」である。とりわけ、早期発見の場合には、乳房を残す乳房温存療法が行われ、この手術法だけで手術の約40%を占めるようになってきた。

しかし、この手術法を用いても、左右同じ形で温存できるケースはごくまれで、温存とは名ばかりということも多い。だからこそ、多くの人々が乳ガンを薬で完治できる日を待ち望んできた。
その願いへの橋渡しとなるであろう究極の乳ガン手術法が、ついに日本に上陸した。「MRガイド下集束超音波手術(略称=FUS)」である。十数年の歳月をかけて米国ハーバード大学医学部で開発された装置を使った手術である。

MRI(核磁気共鳴画像法)で乳ガンの場所を確認しながら、超音波のエネルギーを患部に1点集中照射し治療する。

簡単に説明すると、虫メガネを使って太陽光線を黒い紙の1点に集中させ、焼く原理と同じである。太陽光線を超音波に置き換えたのがFUSということになる。ガン治療のひとつに「温熱療法」があるが、その療法のひとつである。

この療法では、ガン細胞の部分だけが60~80度で熱せられるので、42度以上では生きられないガン細胞は壊死する。照射は1箇所につき約20秒、続いて約90秒クーリング(冷やす)を行う。これを30~40回繰り返して、ガン細胞を焼灼してしまう。局所麻酔も必要なく、患者は鎮痛薬を服用するだけ。だから、日帰り手術だ。

ハーバード大学ブリガム女性病院をはじめ、いずれも超一流といわれる7施設で臨床試験が行われ、8施設目として、日本のブレストピアなんば病院(宮崎市)が、今年4月の第3段階から臨床試験に参加している。すでに11例(自由診療1例含む)の治療が行われ、ガンの消失をみた。今秋からは第4段階に入る。現時点では直径3センチ以内の早期乳ガンが対象で、近々一般の患者への治療も開始する考えという。希望者には、あくまでも臨床試験中であることを十分納得してもらってからとなるが、乳ガンの手術の進歩は最終段階に入ったといっても過言ではない。

食生活のワンポイント

乳ガンを発症するリスク要因は数多く指摘されている。「未婚」「初潮年齢11歳以下」「閉経年齢55歳以上」「肥満」「エストロゲン投与」「乳ガンの家族歴」「高脂肪・高栄養」などである。

このうちの高脂肪・高栄養は食生活で改善できる。このとき「乳製品や肉類は乳ガンにつながるリスクが高いので敬遠すべき」と考えがちだが、それは短絡的だ。大切なのは、バランスのとれた食生活である。

もっとも、肉類に関しては、米国ガン研究財団は「牛肉・豚肉など赤身の肉は1日80グラム以下に」と勧告している。また、1日1回肉を食べている人が、魚と交互の食生活に変えるだけでも乳ガン予防に結びつく。魚に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)には、乳ガンの発生を抑える効果があることがわかっている。

これにキノコ類やミネラル豊富な海藻類を加えると、栄養のバランスがよいばかりでなく、キノコや海藻そのものにも乳ガンのリスクを避ける効果があるとされている。カロリーもゼロとうれしい。また、大豆イソフラボンが含まれている豆腐や納豆にも、乳ガン予防効果があるとの研究発表がある。魚、大豆、キノコ、海藻中心の日本食がベストのようである。