ビジネスとしての電子書籍の可能性

情報を固めることで価値を生み出す本というアイデアは、ネット上ではなかなか難しい。であれば、ビジネスとしての電子書籍には可能性がないと見た方が良いのだろうか。個人的にはそうは思わない。ビジネスモデルの形を変えれば良いのではないかと思う。

少なくとも、ネット上では、情報の固まりとしての本には価値が生まれにくい。であれば、もはやそれは無料に近い形で配付したらどうだろうか。ビジネスモデルや事業システムよばれる考え方の基本は、全体として収益性を確保するというアイデアにある 。この場合、電子書籍そのものはフリーにして、しかしそれをきっかけにして別のところで収益を得ようとするのである。

■『事業システム戦略』
加護野忠男・井上達彦/有斐閣/2004年 


 

マーケティングという観点からは2つのアイデアがある。1つは、定番だが広告を組み込むという集客型のビジネスモデルであり、もう1つは、販売が終わった後でこそビジネスが始まると考える関係性マーケティングの視点に基づくビジネスモデルである。

1つ目の広告は説明するまでもないだろう。先ほど、新聞や雑誌は比較的ネットに適応していると書いたが、その理由の1つは、新聞や雑誌はもともと広告収入を柱とするビジネスモデルを構築してきた。旧来のノウハウをうまくネット上で利用できているということであろう(この記事もそうだ)。

むしろここで考えてみたいのは、2つ目のアイデアである関係性マーケティングの視点に基づくビジネスモデルである。具体的に何をするのかと言えば、本を読んでもらった後で、あるいは読んでいる最中に必要となる付加価値をうまく提供できるようにするというわけだ。

マーケティングの泰斗といえばフィリップ・コトラーを思い浮かべる人も多いだろうが、ここはセオドア・レビットを思い起こそう。4分の1インチのドリル、マーケティング近視眼といえば、知っている方も多いに違いない。レビットは、すでに1983年に次のように述べている。マーケティングは、販売が終わった後(After the sale is over)に始まる 。彼が1つの例で挙げているのは保険業務である。保険業の場合、特に保険を売って終わりというわけにはいかない。その後もしっかりとケアをし、関係性を維持し、なんならば顧客の生活状況の変化に合わせて新しい保険を提案する必要も出てくる。ビジネスは、むしろ最初の保険を売った後に始まるというわけである。

■『T.レビット マーケティング論』
セオドア・レビット/ダイヤモンド社/2007年