2000万円の退職金を手にしていたとしても、退職記念の海外旅行で100万円、住宅をバリアフリー化するためのリフォームで500万円、それに車を買い替えて400万円と使っていたら、残りは半分の1000万円。それに2人いる子供のマンション購入におのおの300万円援助したら、手元に残っているのはわずか400万円である。「まさか」と思ってはいけない。これは実際の話に基づいたシミュレーションなのだ。
図5に見るように、もととも老後の生活のお金に強い不安を持っていたはず。年金で足らない分を毎月貯蓄から5万円ずつ崩していくのにしても、10年間で600万円だ。年金の支給が始まる65歳時点での女性の平均余命は23年。それを考えたら1380万円の蓄えが必要になる計算である。一時、大金が懐に入ったからといって、それに目がくらんで散財したり、子供を援助する余裕など初めからないのだ。もちろん、子供が緊急事態で苦しんでいても黙っているしかなく、後は親子で共倒れという悲惨な結末を待つばかりとなる。
それゆえ子供世代は、自分の身の丈以上の物件を選ばないことはもちろんのこと、そのまま賃貸物件に住み続けるという選択肢を検討することも重要だ。これから日本の人口は減り続けていく。その結果、賃貸市場の需給関係が緩くなって、家賃相場はダウントレンドに入るからである。また契約の際の条件も緩和され、高齢になったからといってNGというようなことはなくなり、いつまでも安心して住んでいられるようにもなる。
一方、親世代は虎の子の退職金を使うのではなく、増やすことを考える。日本航空の破綻で同社OBの企業年金が減額されたように、あてにしていた年金が満額もらえる保証はどこにもないのだ。
そこで勧めたい投資方法が、日本国内、欧米などの先進国、そして中国やブラジルなど経済成長著しい新興国の3つに分散投資していくこと。どこか1つが落ち込んでも、ほかの2つでカバーすることでリスクの低減ができる。とはいえ、情報入手の手間などを考えると、個別の株式に投資をしていくのは難しい。そこで各地域・国の株式の指標に連動して基準価格が変動する投資信託やETF(上場投資信託)を活用するのがベストだ。
現在「PIIGS」と呼ばれる、ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインの財政危機に瀕したユーロ諸国の動向が危惧されている。しかし翻ってみれば、一昔前まで経済大国として栄耀栄華を誇ってきた日本も、いまや大幅な財政赤字を抱え込んでいるではないか。没落するときのスピードは想像以上に速い。いまから家計を見直して必要な対策を打ち始めても、決して遅くはないのだ。
※すべて雑誌掲載当時
1968年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。自動車メーカー勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。『サラリーマンは2度破産する』『貯まる!資産3倍手帳』など著書多数。