――「漫然と迎える未来」で紹介されているシミュレーションストーリーに、親が失業し、自分はハンバーガー屋でアルバイトをしながら暮らす若者の話が出てきます。グローバリゼーションの進展で、世界中の労働者と競争をする羽目になり、スキルがないので転職ができず、低賃金で暮らすという暗澹たる未来図です。これを「暗すぎる話」と受け取る人も多いのではないでしょうか。こうした「アンダークラス」(底辺層)の存在をどうしたらいいのでしょうか?

私もアンダークラスの問題を非常に心配しています。経済のグローバル化では必然的に「仕事の空洞化」現象が起きます。テクノロジーが進んだために、簡単にできてしまう仕事は賃金の低い国にどんどん移動し、ロボットやコンピューターがとってかわります。選択肢は、グローバル市場で通用し、アウトソースされないスキルを身につける人物になるか、あるいは美容師、ウェイトレス、老人の介護者といった、高齢化のすすむ都市で需要が高まるサービスに従事するかのどちらかになるでしょう。仕事の空洞化はこれからも続きます。

――打開策はないのでしょうか?
©Noriko Maegawa

残念ながら、この流れを逆にするような要素は見当たりませんが、だからこそ教育に力を入れるべきです。また、単純作業をやっている人たちにも仕事の達成感を持てる社会にすることです。自分たちが社会に重要な貢献をしており、決して失敗者ではない、と思えるような価値観が持てなくてはなりません。富に過度に焦点を合わせた社会では、お金持ちでないことが「失敗した人」になってしまいます。お金や地位を過大評価することは、充実した経験がもたらす幸せを過小評価することにつながります。「働く」という行為で最も大切なのは、自分が意味があると思えることに従事し、それに対して喜びを感じることです。先に述べた、「3番目のシフト」です。消費を目的とするのではなく、お金以外の何かを生み出すことをもっと考えていかなくては。

――教育に力を入れるべきだとおっしゃいましたが、具体的にはどういうことが考えられますか?

多くの教育機関がテクノロジー環境の進展に十分に追いついていないと思います。私の息子の1人が2年前に大学に入りましたが、授業の話を聞くと、私が30年前に経験したものと瓜二つでした。教師が教室で一方通行的に講義を行い、情報は学外の人には概ね閉じられています。いまやネットで世界中の人がつながっています。アメリカのMITやハーバード大学の教育者たちは、講義内容をネットに載せ、誰でもこれを見ることができるようにしています。これから20年、30年で、このEラーニングはもっと一般的になって、私たちが学習するやり方を完全に変えてしまうと思います。ただ、教育機関はこうした変化への対応に苦労すると思います。というのも、過去20年で、企業は男女の雇用・昇進機会の平等化や柔軟な勤務時間の導入などをすすめてきましたが、少なくともイギリスの教育機関はそれに匹敵するほどの変化をしていないと思います。

(つづく)

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