アメリカの一流大学にはない「就職内定率」

顧みて、日本はどうだろうか。すでにグローバル企業が人事戦略的に着々と戦闘態勢を整えているというのに、相変わらずの無風状態で一向に戦闘準備に取りかかっていない日本の企業社会を見ていると、ビジネスが戦争であると理解されていないと、つくづく感じる。

たとえば民主党政権は経済対策の基本方針の一つとして、新卒者の就職支援を決めた。今春の大学生の就職率が91.8%と過去10年で2番目に低かったことを受けて、まずは予算をつけて大学やハローワークの就職相談員を増員するという。ちょっと待て、と言いたい。

就職しなかった8%の新卒者には、10社も20社も受けて全部落ちた輩も大勢いる。“品質”に問題がある学生を企業に紹介するのに、なぜわざわざ税金を使う必要があるのか。このようなことを言うと「大前は非人道的だ」などと批判する向きがあるが、ならば私は「世界の現実を知っているのか」と問いたい。

中国の大卒者の就職率は約7割で、3割は決まっていない。韓国も大体似たような比率だ。イギリスの就職率は何と3割。7割は就職先がなく、2~3年放浪して自分の進むべき道を見つける。大学を出た段階で就職が決まっているほうが普通ではないのだ。30歳以下の半分は失業しているスペインでは、新卒者もその失業者の山に入っていくだけのことだ。

アメリカではハーバードやスタンフォード、MITなどの一流大学を出て大企業に行く人間はほとんどいない。大半は自分で起業するか、面白そうなベンチャー企業に行く。

そもそもアメリカの一流大学には「就職内定率」などという言葉はないし、就職指導課も就職指導係もない。教務課に張り出されているチラシを見て、企業の採用係の説明会に出席し、自分で面談を受けるだけである。私もマッキンゼーにいた頃にはハーバードやスタンフォードの説明会によく「客寄せパンダ」として狩り出された。

就職率92%というのは諸外国から見れば驚くべき数字なのだ。戦闘準備に余念がないボーダレス企業は「即戦える力」を求めているのに、日本では得体の知れない大学を出た実力未知の学生にまでジョブのオファーをしてあげる。この差は、どう考えてみても、異常だろう。

100%の就職率を目指すなどというのは、成長戦略どころか、若い世代の安定志向を助長し、日本企業の活力を奪う足枷になりかねない。

※すべて雑誌掲載当時

(小川 剛=構成 的野弘路=撮影 AP/AFLO=写真)