ジョン・チェンバース氏という逸材なくしてシスコは語れないし、セルゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏という2つの巨大な才能の出会いなくしてグーグルは誕生しなかった。フェースブックが数多あるSNSの中から断トツ1位になったのもマーク・ズッカーバーグ氏を抜きにしては語れない。彼らがいたからこそ、シスコやグーグルは「見えない大陸」にテリトリーを築いたのであり、きわめてパーソン・スペシフィックな成功なのだ。

M&Aで事業を急拡大させたシスコ社のジョン・チェンバース氏。
(ロイター/AFLO=写真)

このパーソン・スペシフィックを最も嫌う人種が大学の先生、学者である。成功事例を分析してフレームワークをつくって、それを毎年繰り返し教えるのが仕事の彼らには「成功するかどうかは人による」という考え方は受け入れ難い。

彼らは業績がいい会社と悪い会社の競合分析によって差異を洗い出し、それを煮詰めていくことで一つのフレームワークをつくる。20年前から今日までの業績を分析してつくったフレームワークは、今の時代から20年遅れているし、そのフレームワークを学者が次の20年使えば、学生たちはトータルで40年遅れる。そんなフレームワークでは、最前線の経済の説明がつくはずがない。

だから、ハーバードやスタンフォードなどのビジネススクールで行われているケーススタディもほとんど役に立たない。ハーバードなどではケースワーカーが9カ月かけて完璧に優良企業のモデルケースをつくり上げて授業に備える。しかし、これだけ変化の速い時代に半年以上も前のケースが鮮度を保てるだろうか。「先生、その会社、とっくに潰れてます」とか「グーグルに買われましたよ」と学生から指摘されるのがオチだ。