緊張感さえ漂うような一分の隙もない仕上がり。
徹底したものづくりだけが到達する美しさを見る。

高級時計というと、時計の顔であるケースや文字盤、内部のムーブメントが語られることが多い。だが、装着感という観点からすればバンドほど重要視すべきパーツはない。実用時計を追求するグランドセイコー(以下GS)のバンドを見ると、あらためてそんな思いを強くする。

大川庄介さん
イワツキプレシジョン、設計・金ムク課所属。1978年入社。研磨、設計、設備などバンド製造を熟知する。現在は生産関係全般を取りまとめる。

「長く使っていただけるバンドというのがGSのポリシーです」

と話すのは20年以上にわたりGSのバンドを手がける大川庄介さん。大川さんが勤務するバンビグループのイワツキプレシジョンは、当時海外の一流ブランドからも依頼を受けるほど品質の高さに定評があったが、それでもGSのバンド製造には骨を折ったという。

「GSに求められるものは一般的な高級品のさらに上の品質。当初から磨きや仕上げにはこだわっていたのですが、大きな転機となったのが9Fの開発です。このムーブメントにかける意気込みは並々ならないものでしたから、こちらも絶対に壊れないバンドを目標にあらゆる技術を投入しました」

「9F」とは1993年に発表されたクオーツムーブメント。セイコーが100年後まで見据えて製造した肝入りのムーブメントを披露するにあたり、外装部品にも相応の品質が求められた。コマの形状から、アジャスト部分のパーツ、バックルの設計、バネの材質……など、紙幅の都合上、詳細を紹介できないのが残念だが、現在のバンド製造のもとになる技術の多くがこの時期に開発され、以降も技術的進化を遂げてきた。

伴田雅紀さん
バンビ、営業部所属。1984 年入社。生産管理を経て営業部へ。現在はセイコーの高級品を担当。「GS は着けてみてさらに良さが分かる時計」と語る。

美観の面でもまた、GSのバンドは特徴的だ。職人の特別な研磨技術により、丹念に磨き込まれたコマの美しさは目を見張るものがある。営業担当の伴田雅紀さん曰く、そこにこそ実用時計の頂点を目指すGSらしさがあるという。

「手に着けてみると温かみを感じるというか、ひっかかる感じが全然ない。コマをカットした後に必ず磨きをかけてシャープさを抑え、手首に自然となじむように設計もされている。この着用感の良さが1番の特徴でしょう」

デザインを主張する傾向が強い海外ブランドに比べれば、GSのバンドはいたってシンプルに映る。だが、シンプルであればあるほどごまかしが利かず、実用性や美しさと真っ向から向き合わなければならない。シンプルは決して単純にあらず。機能美を重んじてきた日本古来のものづくりと響き合う魅力がそこにある。

コマの角が滑らかに仕上げられているため手に吸い付くような装着感。サテンとポリッシュの組み合わせ、中ゴマをわずかに高く設計するなど、細部の徹底したつくり込みが高級感を生む。


「グランドセイコー」(SBGR051)。

 

「GS のバンドを育ててきた自負がある」と語る大川さんの自信作。美しくも実用的なバンドは職人技の粋。キャリバー「9S65」搭載。

ケース、ブレスレットともにステンレススチール。
ケース径37mm。
自動巻き(手巻き付き)。
36万7500 円

 

Series グランドセイコー物語<全5回 index>

第1回 合言葉は「100年後」
第2回 「1つ上」の使命
第3回 「美」に近道はない
第4回 「シンプル」のすごみ
第5回 「コンマ1」の必然

(構成・文/デュウ 撮影/山下亮一)