2012年9月21日(金)

マツタケ――中国産なら1人前500円でマツタケ牛丼できます

dancyu 2012年10月号

福地享子=文
【つくり方】
1人分として、スライスしたタマネギ1/2個をすき焼き用割り下で柔らかく煮る。牛コマ70gを入れ、色が変わったらマツタケ1本を手で大きく裂いて加える。さっと煮合わせて、熱いご飯の上に。マツタケは、食感も大切なので、煮すぎない。

青果の仲卸の店頭のあちこちでは、マツタケがどや顔の行列だ。

春の早(さ)マツタケは別として、シーズン幕開けを告げるのは中国雲南省や四川省、吉林省からのもので、6月には店頭にならぶ。価格は、小ぶりなもの3~4本で1000円前後とかわいい。

と書いてハッとする。しいたけやしめじに較べるとはるかに高いのに、マツタケだとどうも金銭感覚がバカになる。

あくまでかわいいお値段、としておこう。そんな中国産が夏の前哨戦を盛りあげているうち、ボツラボツラと国産登場。築地は、丹波や京都産は少なく、東日本が主産地。まずは、ちょいスマートな北海道産が顔を見せ、やがて岩手県産などの東北組や信州産などのズングリムックリ、イメージ通りの彼らが続き、9月のお彼岸前後から本格的に入荷。10月にピークを迎えることになる。

とはいえ、これもお天気しだい。9月に入って雨が降り、涼しくなれば、という条件つきだ。マツタケは赤松の根についた菌が、適度な温度と湿度に恵まれ、初めてマツタケになる。気象条件に左右される気むずかしいキノコなのだ。

だから、とんだ番狂わせだって。一昨年のことだ。あの年は、国産マツタケの入荷が遅れに遅れた。そして、お彼岸の某日、岩手県産400g入り、たったの1箱入荷。2軒の仲卸がせりあい、22万円にもなってしまった。ところが史上空前の仰天価格をあざ笑うかのように、10月中旬に入るや続々と入荷。ついには100年に一度の大豊作となり、あの22万円と同じ目方の箱が2000円台にまで暴落。関係者を翻弄させたのだった。

国産マツタケにはこんな雲の上の話があるのだから、中国産ごときで金銭感覚がどうのとぼやいちゃイカンのだ……。というのは嘘で、いいんです、中国産マツタケで。これで牛丼をつくるのだ。実はマツタケ関係者が口をそろえていわく「食べるのならすき焼きだ」と。だけど、鍋にマツタケが放り込まれた瞬間を思うと、恐いのだ、自分が。日ごろの慎み深さを忘れ、マツタケに突撃するあさましい姿が想像できて。というのも嘘で、一歩手前のプチ贅沢が身の丈だ。

マツタケはひとり1本。タマネギで甘味を、上等な牛コマで味だしを。マツタケは、味がしみるように手で裂くのがコツだ。トロトロのタマネギがからみついたマツタケを口に入れると、シャキシャキとした歯触りと、鼻の奥にユラユラ漂っていく香り。これぞマツタケの快感。と、うっとりしつつも、中国産だと材料費は500円、と計算して有頂天な自分が情けない。マツタケに冷静になるのは、まず無理ってもんでしょうか。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。