2012年10月5日(金)

サーモン――刺身に寿司にムニエルに。トロ好きの日本人に大人気。

dancyu 2012年10月号

福地享子=文
【つくり方】
刺身用にサク取りしたサーモンに、たっぷりの粗塩、その半量ほどの三温糖をまぶし、タマネギの薄切りを散らし、冷蔵庫で一晩置く。ラップに薄切りにしたサーモン、バジルかディルを置き、酢飯をのせ、手鞠の形になるように包む。

サーモン。というよりノルウェーサーモンのほうがピンとくるのかも。スーパーでも目立ってるよな、ひときわ鮮やかな色で。表示を見ると、アトランティックサーモンのひとことが。これが図鑑的な名前で、タイセイヨウサケとも呼び、北大西洋に棲むサケだ。しかし、ノルウェーやチリなどで国家的な輸出産業としての養殖がさかんになり、日本でも1980年代から輸入を開始。スタートは200トン規模だったものの、今はざっと100倍にまで伸びている。

そんななか、圧倒的シェアを誇るのがノルウェー産だ。初上陸から30年、今やサーモンといえばサケにあらず! 養殖アトランティックサーモン、すなわちノルウェーサーモンが常識に。まったくモンスターなみのすさまじい普及ぶりだ。

築地でこのモンスター君を見ていると、おもしろいことに気づく。日本だけでなく、世界市場がターゲットなので、海外情勢にとても敏感なのだ。リーマンショック前はBSE問題もからみ、世界で魚の奪い合いが始まるや、日本はサーモン買い負けの危機に。仲卸に輸入業者さんから「現状価格では買い付けがショートする」と、深刻な回状が届いたこともあった。イースターやクリスマス前は、欧米需要に合わせて値上がり傾向になるのも毎度のことだ。もっとも今は、ヨーロッパ経済は冷えきり、円高なのでリーマンショック前に較べると、驚くほど安い。卸会社のサーモン担当にとって、なにより気がかりなのは、為替の変動と海外の動向である。

「とれたてを生のまま空輸」。「良質な脂、とろける食感、美しいピンク色」。これがサーモン売り込みのキャッチフレーズだ。気づきませんか、そうマグロのトロの表現に限りなく近い。サーモン急成長の秘密は、ムニエルでも、まして塩焼きでもなく、日本人のトロコンプレックスをついた作戦にあった、と思う。

そのとおりに寿司ダネ、刺身を頂点にムニエルまで人気のサーモンだけど、たまにへそ曲がりもいる。刺身にすると、良質の脂は「脂っこい」とぬかし、とろける食感は「グニャッとしてる」だと。まったく夫ときたら。でも、こういうとき、妙に闘志ってわくんですねェ。

攻略法はひとつ。マリネにすることだ。塩と砂糖をまぶし、タマネギを散らして一晩。それだけ。すると身も脂も締まり、筋の通った味になるのだ。生姜醤油で和風よし、サラダにも。ラップを利用した寿司も意外に簡単にできる。

夫はモソモソ食べている。「おいしい?」と迫る私がめんどうなだけなのかも、と不安はよぎるが、まぁ、お皿が空になったので、みごと陥落したのであろう。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。