データ価値を握る第四次産業化

このようにサービス業を展開することのメリットのひとつに顧客の情報を収集できるということがある。直接顧客と接する場を持つことで顧客に様々なニーズが集まり、企業として対応しやすくなるということがある。従来の製造業はつくるところまでが仕事であり、その後は販売する人たちに任せるという発想が強く、なかなか直接顧客の情報を得ることができなかった。その結果POSデータを握った小売りなどに主導権をとられるという状況も生まれてきている。しかし、ここでITが大きな役割を果たせるようになってきている。ハードウェアがネットワークにつながる状況が訪れたため、その情報を収集し、価値をつくることができるようになったのである。

例えばそれにより強力な差別化を作った企業にコマツがある。コマツは自社の製造する建設機械に「KOMTRAX」というシステムを導入している。このシステムは建設機械の位置や稼働時間、稼働状況、燃料の残量、消耗品の交換時期などがわかり、遠隔でエンジンをロックすることもできる。支払いができないと即座にエンジンを止められるし、盗んで場所を移動させても止められる。消耗品の交換時期もあらかじめ予測できるので、故障も少なく安定稼働できるなどのメリットが生まれている。

しかし、なんといっても重要なのはその膨大なデータから分析することで生まれる新しい価値提供である。例えば鉱山の現場ではどのようなルートで巨大トラックを運ぶともっとも効率的かという分析が可能であるため、鉱山会社へコスト効率化の提案ができるようになっている。もはや鉱山会社からするとコマツのハードウェアがなくては経営できないところまでの価値を提供している。こうしたデータを販売代理店も活用することで顧客への提案や営業活動に活かすこともできる。なにしろ世界第2位のシェアを持つコマツの全世界での稼働状況は、そのままリアルタイムな世界経済の状況でもある。コマツのデータから経済予測ですらできるのかも知れない。

→コマツ“建機遠隔管理ビジネス”の凄み
http://diamond.jp/articles/-/6918

こうしたデータから新しい価値を創造する産業を筆者は「第四次産業」と名付けている。グーグルはその代表企業だろう。顧客の様々な行動データを握ることで、新しい価値を創造する動きは前回述べた通りこれから企業のマーケティング活動において欠かすことのできないものになる。今こそ製造業は顧客の行動データを捕捉し、価値提案をどんどんしていけるサービスモデルに転換していくべきだろう。特にこれまでグーグルのようなサービスはPCベースのものがほとんどである。家電製品や自動車など我々の生活関連の様々なハードウェアの利用状況の取得はこれからである。

一方で太陽電池と蓄電池などエネルギー関連分野では各家庭のエネルギー利用状況を捕捉するスマートメーターを設置する動きも出てきている。またスマートフォンの普及はハードウェアをスマホとの通信によりデータを取得することを簡単にする。実際パナソニックが最近発表したスマート家電は白物家電とスマホを連携させることで顧客の利用データを活用することを目指している。

→パナソニック「スマート家電」を本格展開
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/1208/21/news113.html

このようにハードウェア(第二次産業)、サービス業(第三次産業)、情報価値化(第四次産業)の組み合わせこそが製造業の生きる道だろう。食品に絡む領域では生産地を巻き込むことで第一次産業も組み合わせることができる。他にも健康、教育、安全、美容などは成熟社会の先進国においても引き続きイノベーションが十分存在する市場であり、二次産業×三次産業×四次産業によるモデル創出による輸出産業化も望まれる。ただしそのためには製造業からするとビジネスモデルの転換も必要かもしれない。現在の売り切りではなく、月額利用料をもらうようなモデルが向いている。場合によってはレンタルモデルが向いているかも知れない。

いずれにしてもどんどん売って、売って、売りつけるモデルではなく、必要としている顧客からトータルでいくら払ってもらえるかというLTV(顧客生涯価値)を求めるモデルへの転換は必要になる。月額5万円で家電使い放題というビジネスモデルだってありかも知れない。それは顧客対話型であり、マーケティングオリエンテッドな経営に変わることが真に求められる。そしてそこにこそ量販店で叩き売られる世界との決別の鍵があるだろう。

図版を拡大