シンプルでロジカルな文章は、実は理数系人間が得意とするところ。新発想の文章術をプロが指南。まずは長文との決別から始めよう。

畑村洋太郎式文章術

自分の持っている知識やノウハウを文章化して後進に伝えたのに、結果的に何も伝わっていないことがあります。どうしてこのようなことが起きるのか。それを説明するには、まず物事が「わかる」仕組みを紐解く必要があります。

工学院大学教授
東京大学名誉教授
畑村洋太郎

1941年、東京都生まれ。66年日立製作所入社。68年東京大学工学部助手。83年同教授。2001年畑村創造工学研究所開設。著書に『技術の創造と設計』『みる わかる 伝える』ほか。

あらゆる事象はいくつかの「要素」によって構成され、それらが絡み合う形で「構造」をつくり出しています。私たちは新しい事象に出合うと、「構成要素の摘出」と「要素の構造化」を行い、それが「自分の頭の中に持っている要素や構造」(テンプレート)と合致するかどうかを直観的に判断します。目の前の事象の要素と構造が、自分のテンプレートと合致したときが「わかった」で、合わなかったときが「わからない」です。

相手が「わかる」状態になるには、まず要素を過不足なく伝える必要があります。たとえば知識を構成する要素が5つあるなら、きちんと5つを伝える。要素と同時に伝えなければいけないのが構造です。5つの要素をどのように組み立てると、同じ形になるのか。部品だけでなく、設計図を一緒に伝えるわけです。

注意すべきは、部品と設計図を渡しただけで満足し、伝わったかどうかの確認を怠ってしまうことです。

「伝える」と「伝わる」は違う。こちらがいくら正しく伝えたつもりでも、相手の頭の中で同じ要素と構造が再現されていないかぎり、何も伝えていないのと同じことです。

仕事上のちょっとした行き違い程度ならまだいいのですが、ときには人命にかかわる事故や、経営を左右する不祥事に発展する場合もあります。「みんなわかっているはず」は厳禁。その意味でも着目したいのが、「暗黙知」です。

暗黙知は、いくら文章化してマニュアルをつくりこんでも共有できません。マニュアルで伝えられるのは、知識の基本構造のみ。そこに個々人の経験した情報を付け加えても、同じテンプレートのない相手には拒絶されてしまうだけです。

ところが、会議1つをとっても、いま多くの企業で行われているのは、情報の伝達を行うのみの儀礼です。そうではなく、ディベートをすることで、個人知を共有知へと変えていく。議論して個々人が自分の知識をぶつけあえば、それぞれが自分に欠落していた知識に気づくはずです。それにより、個人が持つ暗黙知の表出と共有が可能になるのです。