09年に社長に就任して以来、唐池が目指してきたのは、冒頭の発言通り「九州を売る」ことなのである。

「日本を代表する温泉地の由布院には、玉の湯、亀の井別荘、無量塔という御三家がある。これらの超高級旅館に泊まれるのは1日わずかに数十名。ところが実際には、由布院には1日2000人もの人がその周辺で宿泊している。御三家の存在が多くの人々を牽引しているわけです」

クルーズトレインプロジェクト担当課長 仲 義雄
九州旅客鉄道
クルーズトレイン
プロジェクト担当課長
仲 義雄

2011年のプラン発足時から九州一周豪華寝台車「ななつ星 in 九州」を担当。

「ななつ星 in 九州」においても、唐池はこれと同じ方程式を持ち込もうというのだ。

クルーズトレインプロジェクトの仲義雄担当課長が補う。

「『ななつ星』から溢れた人たちが、あれには乗れないけれど、九州に行ってみよう、となる。あるいは、列車を紹介している記事を見て九州に興味を持つ。28人と供給の数字は小さいけれど、ブランド力の向上、情報発信という点で、その何万倍も九州に対する関心と需要が拡がっていくことを狙っている」

とりわけ、「アジアでの九州の知名度はまだまだ低い」と分析する唐池は、この世界一の寝台列車をイメージリーダーとして、何としても大量の客をアジアから呼び込みたいと企図している。

ストーリー性のある列車デザイン

唐池は、国鉄が北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州のJR6社に分割民営化した1987年から「九州を売る」ことに心血を注いできた。収益は沿線の人口に比例するといわれる鉄道事業において、JR九州は、北海道、四国とともに発足時点ですでにハンデを抱えていた。経営安定基金を補填してもらっての分割民営化だったが、3島3社は鉄道運輸事業のみに頼っている限り、赤字経営から逃れられない体質だったのだ。

唐池は、そうした宿痾に抗いながら、25年間にわたって次々と新機軸を打ち出してきた。日韓を結ぶ高速船ビートルの運航、外食事業の展開、観光列車の推進などなど唐池が立ち上げ結実させたものはあまたある。その結果、売り上げの6割近くを鉄道運輸事業以外から生む企業へと変貌させることに成功したのだ。