上司は、あらかじめ結論を持っている

多くの大企業がこの人事評価の“二重基準”の問題を抱え込んでいる。かつてリクルートコスモス(現コスモスイニシア)で人事部長を務めた、コンサルタントの今野誠一氏はこう語る。

「7~8割の管理職が日々、部下の日常を観察し、心の中で結論をあらかじめ持っている。例えば、この部下は自分の後継者に、あの部下はよその部署に出そうという具合に……。いざ査定をするときには、人事部から与えられた考課シートにその結論に沿って書くことが多い。この“二重基準”を避けるのは難しい」

正社員だけで3500人を超えるアサヒビールの人事部エグゼクティブプロデューサー、樋口祐司氏にその疑問をぶつけると、こう答えた。

「人事評価の二重基準の問題は防げないという前提で我々は動く。人事異動のときは、十数人の人事部員が手分けして全国の支社・海外のグループ会社などに出向き、社員の上司らと話し合い、職場の状況や社員の成長意欲などを確認する」

さらに、社内のセレクトで頭角を現す人材についてはこう語った。

「自分の核を持ち、それを磨くこと。さらにそれを武器にすること。そのうえでマネジメント力を強くしていくべき。まずは、いまの仕事ぶりが認められていないと、次のステージには進めない」

それは“T字型の人材”と呼ぶことができる。自らが取り組む現在の仕事で、他者を寄せつけないレベルまで力を発揮する。これが“T”の縦軸。管理職などに昇格し、部下や周囲を抱き込んでチームの業績を伸ばしていく力が横軸である。

同社は、人事戦略においていっそうの合理性を追求し始めた。「採用、育成、配置転換などを総合的に合理的に考えていかないといけない。それくらい厳しい時代になりつつある」(樋口氏)。

“人事の合理性”という言葉はここ数年、大企業人事部の役職者がよく口にする。その1つが、社内の人材を早期に選抜し、中核を成す“コア人材”を計画的に育成することである。