鎌田浩毅式文章術

京都大学大学院
人間・環境学研究科教授
鎌田浩毅

1955年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業。専攻は火山学。学生からの講義の評価は教養科目の中で1位。著書に『中学受験理科の王道』『一生モノの勉強法』『火山噴火』など。

書き出しが決まらないと、そのあとに続く文章が書けない完璧主義の人がいます。緻密に論理を重ねる理系人ほど完璧主義に陥りやすいと思われがちですが、実際は逆です。効率的なアウトプットを優先する理系人は、時間を無駄にすることを嫌います。限られた時間で効率的にアウトプットしようと思えば、手のかかるものに時間を費やす暇はない。書きづらい部分は飛ばして、さっさと先に進みます。

そもそも理系には、最初から順番に書く発想がありません。全体の枠組みを決めたら、書きやすいところから文章を書いて、枠を埋めていきます。自分のもっとも主張したいことから書いてもいいし、データや事例といった客観的事実から書くのもいい。どちらにしても書きやすいところから始めれば、「文章を書かなければいけない」という心理的な負担も軽くなり、楽に作業にとりかかれます。

あとは足りないところを付け足しながら、文章を完成に近づけます。結果的に冒頭部分を最後に書くことになっても構いません。無理して最初から書き出すより、ずっと早く文章が完成するはずです。

全体の枠組みが決まらずに書き始められない場合も同様です。思いついたところから書いて断片をつくれば、あとからつなぎあわせて編集することも可能です。私もよく外出中に携帯電話で思いつきを打ち込み、PCに転送しています。あとでメールをコピー&ペーストすれば、もう文章作成の大部分は終わっています。

思想家の内田樹さんは自分の考えをブログにつづり、それを編集者が編集して本にしているといいます。おそらく内田さんは、本という完成形を意識してブログを書いているわけではないでしょう。内田さんが良質なアウトプットを量産しているのも、編集を後回しにしていることと無関係ではないはずです。

(村上 敬=構成 相澤 正、熊谷武二=撮影)
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