コレステロールが高いと「うつ」が減る?

“健康で長生きしよう”と考えたときに、野菜中心の粗食生活をするのは間違いで、肉や魚、野菜、穀類とバランスよく食べることが重要となる。特に肉には細胞をつくるうえで欠かせない、豊富なたんぱく質や「コレステロール」を含み、積極的に食べるようにしたい食材の代表だ。

しかし、コレステロールが増えると病気になりやすいのでは? と考える人が大多数の日本。日本応用老年学会理事長で医学博士の柴田博教授は、そもそも「コレステロール=悪」という考え方が間違いだという。

「肉類や食用油に含まれる脂肪分を摂りすぎると、血中コレステロールが増えて病気になりやすいという短絡的な発想をする人がいますが、それは油脂を摂取しすぎている欧米での話。日本人はそもそも摂取量が少ないのですから、気にしすぎるのも考えものです。というのも、うつやがんのリスクが少ないのは、コレステロール値が高い人なのです」

日本人の死亡原因の第一位はがん、そして若い人を中心にうつ病になる人も増えている。この解決のカギを握るコレステロールとは一体何なのだろう?

「コレステロールは、私たちの骨、筋肉、内臓などの細胞膜をつくるのに欠かせない物質。これが不足すると細胞膜が弱くなり、ウイルスに感染しやすくなったり、血管が弱くなって脳血管疾患(脳出血)などを起こしやすくなったりします。昭和40年代以降、脳出血で亡くなる人の割合が減ったのは、肉、牛乳、卵などが食卓に浸透し、一般的によく食べられるようになったからです」

コレステロールは精神の健康を保つうえでも欠かせない。柴田教授が65歳以上の男性195人に行った調査によると、コレステロール値が高い人のほうがうつが改善したという。

「65歳以上の195人の男性の血中総コレステロール値を測り、“低”“中”“高”の3つのグループに分けて、4年間にわたってうつの進行度を調査したのですが、コレステロール値が高い人ほど改善が見られました。それは、脳の細胞膜のコレステロールが低下すると、感情を安定させる神経伝達物質であるセロトニンを取り込めなくなるから。うつや自殺を誘発するのは、コレステロールが低いことと関連が高いといえます。また、高齢者の場合、うつ状態が進んでくると認知能力が低下し、認知症のリスクも高くなります」

肉は、それらの問題を解決する栄養素を多分に含んでいる。加えて、肉はセロトニンに合成されるトリプトファンを取り込めるだけでなく、体内で消化されると至福感をもたらすアナンダマイドという物質に変化するアラキドン酸を含む。

「お肉を食べると、満足感を味わったり幸せになったりしますよね。これはアナンダマイドの働きであるともいえるのです。だから、肉体面だけでなく、メンタル面でも肉は不可欠と言えるのです」

“年を取ったから脂っこいものはやめて粗食にする”というのは、実は危うい考え方かもしれない。肉ばかりではダメだけれど、そんなことを意識においてすべての食材をバランスよく食べ、健康づくりを心がけていきたい。

柴田博(しばた・ひろし)
桜美林大学大学院老年学研究科教授/日本応用老年学会理事長
1937年北海道生まれ。北海道大学医学部卒、医学博士。東京大学医学部、東京老人医療センター、東京都老人総合研究所を経て、現桜美林大学名誉教授、人間総合科学大学保険医療学部教授、日本応用老年学会理事長。著書に『肉食のすすめ』(経済界)など多数。