[4]仕組みづくりの人

もちろん、むやみに規模を追求していたわけではない。商売を「可能な限りデカく」するためには、デカいオペレーションをぶん回す仕組みがカギを握る。当時の外食業界で、クロックほど仕組みづくりにこだわった人は皆無だったろう。「特定の店舗やフランチャイズオーナーのクオリティに依存していては話にならない。特定のお店のやメニューのリピーターではなく『マクドナルドのシステムのリピーター』をつくらなければならない。」クロックはこのことをマクドナルドの草創期から明言している。

マクドナルドで独自に開発されたシステムのなかで、レイ・クロック自身が初期に取り組んだものとして、パンのオペレーションがある。開業当時は「クラスターパン」という、4個とか、6個のパンが一塊になっているものを一個ずつ切り分けていたが、これが大変な作業になるので、あらかじめ切り目を入れたパンを仕入れるように改良する。さらに、そのパン用に頑丈で、繰り返しできる箱を開発し、製パン所の梱包費用を削減してパンの代金を下げさせる。

構想はひたすらデカいのだが、クロックの天才はこういう細かいシステムづくりでこそ発揮される。ハンズオン、現場主義といってもいろいろなタイプがある。自分一人ですべてを抱えてしまっては、スケールの拡大はできない。いまより10倍、100倍、1000倍の規模でやるとしたら、どういう仕組みを導入すればいいのか。クロックは何を見てもこの視点で考えている。

クロックは、パンのみならず、肉のパティにも細かいこだわりをみせた。マクドナルドでは1ポンドあたり10枚のパティを作ると決め、それはすぐに業界標準となった。また、パティを包むのに一番適した包装の方法を考えた結果、適量のワックスがかかってる紙だとパティがはがれやすくてよいという結論に至る。高く積み重ねると下のパティがつぶれるので、最適な積み上げ方も研究して、パティ納入業者の箱の高さもそれに合わせるよう改良した。ことほど左様に、クロックは「仕組みづくりにおいてハンズオン」なのである。

システム化の目的は仕事を簡素化し、能率を上げること。各店舗の利益を搾り出すことが一義的な目的なのではない。すべての店舗で同じようなサービスを展開する。真の目的はここにある。これもスケールの追求のためである。標準化ができて初めて急速な多店舗展開が可能になる。すべてをスケールから逆算して考える。この発想がマクドナルドの戦略ストーリーに骨太の一貫性をもたらしている。

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