2012年8月31日(金)

肉食女子を黙らせる「サプライズ肉料理店」へご案内

dancyu 2012年5月号

樫井雄介=文 宮地工=撮影

ビーフステーキへの憧れは、1991年の牛肉の輸入自由化を境に決定的に変わった。それまでステーキといえば、年に一度食べられるかどうかのご馳走。比較的安価に食べさせてくれるチェーンも「ステーキのスエヒロ」や「肉の万世」程度しかなかった。

そんな時代だから、大人の遊園地・銀座でもステーキは“奢ってほしい料理”のナンバーワン。「ステーキ塩澤」や「岡半」「ステーキハウス ハマ」などはホステス同伴のメッカとしてバブルの頃に大繁盛したのである。

その一方で、雑居ビルの一角で密かに、旨い肉を塊で焼いて酒とともに振る舞う場所があったのも銀座の奥深さ。「モリス」や「ポワロー」といった店だ。どちらもカウンターとスツールのあるオーセンティックバーなのだが、「ステーキが食べたいなあ」と言うと奥の冷蔵庫から分厚い塊を切り出して無造作に焼き始める。それをシングルモルトとともに味わう満足感! 進駐軍の時代から受け継がれる銀座の文化を感じたものだ。

残念ながら今はどちらもないが、そんな雰囲気を伝える店が割烹「銀座すえむね(旧名・かじ)」だ。かつて「すてーき雅平」という名で、最上級の肉を炭火焼きで楽しめる8席ほどのカウンターステーキ屋を経営していた店主が、数年前にこちらの主人に請われて特製窯とともに移転。コロッケからフグまで頼める“旨いもの屋”だった「かじ」時代に炭火焼きのステーキまで加わり、「すえむね」はそれを受け継いで、銀座最強の割烹となっている。

本当は8丁目にある「P」のこともきちんとお伝えしたいところだ。メニューは、牛刺し、サラダ、ステーキ、ご飯、味噌汁のみ。見事な焼き色で登場する和牛サーロインは、一人200g見当で人数分を一緒に焼くから、大勢で行けば行くほど肉塊の旨さを堪能できる。夕刻、1時間ほどステーキを楽しみ、夜の帳(とばり)へ出かける紳士たちの姿がいまだに見られる貴重な店なのだが、店の要望でここまで記すのが精いっぱい。興味を抱かれたなら、ぜひ探し当ててほしい。

極上のステーキも食べたいが、その前に美味しい洋風料理も味わいたいという贅沢なリクエストには、銀座の隣町、八重洲の「洋食 島」を推薦しよう。

オープンキッチンでつくる魚のマリネやタルタルステーキ、蟹クリームコロッケなど手の込んだ前菜の後に出されるのは、シェフの大島さんが特製炭焼き窯でじっくり焼き上げた分厚いステーキ。あまりの旨さに、前菜をしっかり食べた後でも300gくらいならペロリと入ってしまう。

銀座だけでなく、古くからの繁華街には、昔からの遊び人御用達のステーキ屋が隠れている。

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樫井 雄介

1963年東京生まれ。

学生時代のゼミの教授にワインの魅力を教えられ、以後、飲食の世界へ。銀座や西麻布など夜の街の知られざる名店に精通する。

最近は、四季を使い分ける日本料理の深みにはまる一方、食材そのものの味に魅せられ、肉の旨さの探求にも熱心。日本全国の生産現場へも足を運ぶ。