徘徊した父親が階段から落ちて、頸椎を骨折したのだ。そのまま労災病院の個室に運び込まれた。しかし、そこで「うちは介護病院じゃありませんから、看護師1人付きっきりにするのは保険適用外」と言われ、費用は実に月80万~90万円。しかも、「今の保険制度では、面倒を見られるのは3カ月だけ。次の病院を探してくれ」といわれた。

ソーシャルワーカーとともに「まるで就活みたいに」あちこちの病院に電話をかけまくり、面接を繰り返した。ようやく見つけた介護専門の病院も、入居すれば月額30万~40万円。やはりリミット3カ月を言い渡された。

困ったことに、父親は転倒時に通帳、財布、キャッシュカードを紛失していた。

「銀行に行ったら、『本人じゃないから通帳の再発行はできない。本人を連れてきてください』。でも、父は病院から出られない。途方に暮れていたところで、両親と20年以上付き合いのあった銀行支店の融資係長が声をかけてくれた」

幸い、その融資係長が気を利かせて代理人契約を結んでもらい、ようやく父親名義の預貯金を使えるようになった。

このころから、母親の様子もおかしくなってきた。父親の面倒を見る平塚氏の携帯電話に、毎日150回以上電話をかけてくる。生肉を食べ、冷蔵庫の中をすべて腐らせた。タクシーで何度も徘徊し、請求額が毎回3万円超……平塚氏は、ついに当時の勤務先を辞めた。

「介護休暇なんてなかった。母親を保護した警察から突然連絡があっても、有給休暇では対応できない。当然、営業成績は下がります。嫁は嫁で私が両親に時間の大半を取られているのが気に入らずケンカの毎日。もう辞めるしかないですよ。デイケアの方から『実の息子が面倒を見るのは珍しい』と言われました。サラリーマンだと、妻に丸投げする人がほとんどで、多くの夫婦が離婚に至るそうです」

その次に見つけた有料の住居型老人ホームも月50万円。ようやく事の重大さを悟った姉夫婦が奔走、月35万円の老人ホームを探し出した。

「姉と連絡を取って、母親を『旅行だ』と騙して連れていきました」