2012年8月10日(金)

クロウシノシタ――フレンチの定番だけど、煮つけにしてもイケます!

dancyu 2012年9月号

福地享子=文
【つくり方】
頭を取り、内臓を抜いて、ウロコを包丁で取り除く。大きければ二つか三つに切る。あとは白身魚の方程式通り、醤油、酒、味醂、好みで砂糖の調味で煮る。あっさりした白身なので、生姜は入れなくてもかまわない。

舌ビラメだのソールだのと呼ばれ、すっかりあか抜けちまったのがクロウシノシタ。昔を知るひとは言うでしょ、きっと。とろ箱に山と積まれ、二束三文で売られる日もあったと。

転機が訪れたのは、1970年代、フランス料理が日本に旋風を巻き起こしたあのころ。本場帰りのシェフたちが、ドーバーソールのかわりに使える、と目を輝かせたのだ。この風に押され、クロウシノシタは、たちまちフランス料理を代表する魚に格上げされたのだった。今では、仕入れにやってくるシェフたちがそう言うので、築地ではフランス流にソールと呼んでもきちんと通じる。ついでながら、だしをとるのにいい、ちっこいヤツは、ジャミソール。ジャミとは小さい、という意味の築地用語だ。

産地は石川や島根、福井などの日本海側、千葉県からも入るし、九州からも。入荷が多いのは夏から秋にかけて。

「温かいと、海んなか泳いでつかまりやすいんだよ。冬は寒いから砂んなか潜っちゃう。不良少年みたいなもんだよ、夏になると、開放的な気分になっちゃって、夜遊びして、お巡りに補導されてよ。それといっしょ」とは、年中ソール、ソール、と血まなこになってる仲間、マッチャンの解説。ま、その通りで、砂地のある海岸を好み、夜間や冬は砂地に潜って暮らす。だから、冬場の漁はむずかしく、入荷量もガクンと減る。

しかし、そうはいっても圧倒的に需要が増すのはクリスマスシーズン。フランス料理のメインの魚として使う店が多いのだ。価格は、平気で夏の倍以上、それでもセリ場は争奪戦。あのマッチャンなんて、クリスマス前は、寝言にもソール、ソール。起きるや、青い顔してセリ場を走り回ってる、ソールはどこだぁ……。

だから、私は夏に食べることにしている。夏は全体に売れ口が悪く、けっこう売れ残ってさえいるのだ。もちろんムニエルにもするけど、ご飯のおかずのためだから、煮つけが多い。ムニエルのときのように、皮をペリッとむく手間もないし。きめの細かい白身は、あっさり煮ると、ヒラメと変わらない、いやそれ以上かも。フランス料理にどうのと言われる以前は、煮つけが定番だったのじゃないかしら。千葉県九十九里の浜や佐賀県の有明地方の漁師料理の店で出てきたのは、いずれも煮つけだった。

品のいい白身という持ち味を堪能するなら、三枚におろして昆布で締める。ヒラメが参った、と頭を下げる味になる。

今の時期、鮮魚が充実しているスーパーなどでは、けっこうお目にかかることも多い。煮つけで、クロウシノシタの新たな真価、発見してみてはいかがですか。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。