東京、六本木ヒルズのテレビ朝日社屋脇を通っている、けやき坂の交差点で、大きな数字の壁を目にしたことはありませんか? ときどき、数字が変わり「時計かな?」と思うのですが時間表示ではない、あれです。実は日本を代表する現代美術アーティストの宮島達男のパブリックアートの作品です。宮島達男は、数字の1から9までの2桁の数字を表示する「ガジェット」というデジタルカウンターを使って、時間という概念を作品にしているアーティストとして、世界的に有名です。彼が作り出した赤色と黄色の「ガジェット」と呼ぶ、数字を表示するデジタルカウンター「ガジェット」は、海外の現代アートファンが秋葉原で売っていないかと探すことがあるほど、です。もちろん秋葉原では売っていません。

HOTO(2008) Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE
写真を拡大
HOTO(2008) Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

宮島達男のコンセプトは非常に明快です。大きなインスタレーションを作り上げるキットである「ガジェット」は、「それは、変化し続ける」、「それは、あらゆるものと関係を結ぶ」、「それは永遠に続く」、という3つのコンセプトで制作されています。デジタル数字が1からカウントされていく訳ですが、9になったとたん、ゼロは表示されず消えてしまいます。ゼロは無、闇になってしまうのです。仏教的であり、さらに禅的です。

カウントのスピードはさまざまで、多くの場合、展示される場所やその場所とかかわりの深い人々がスピードを設定します。数字の変化のスピードが速いものとゆっくりのものがあり、それはまるで「ガジェット」の個性のように感じます。デジタルカウンターである「ガジェット」は、日本が誇るデジタル技術を使っており、その表現の奥底で仏教的死生観も垣間見せるのです。

1999年、ヴェネチアビエンナーレ日本館代表として参加した宮島達男は、代表作と呼ぶべき「メガ・デス(Mega Death)」を発表しました。照明を落とし暗くなった一番大きな部屋全体に、青色発光ダイオードで作られた大量のガジェットがつけられ、数字の点滅が始まりました。数字でありながら、満天の星のような美しさを持った展示は、息をのむほど美しいものでした。ところが、観客の一人がある場所に立つと、いきなりすべての光が消えてしまう仕掛けになっていました。その時、観客は当然、あっと驚かされます。真っ暗な闇を体験し、少し不安な気持ちになります。やがて、少しずつガジェットが息を吹き返すように、点滅を再開し始めます。その瞬間に、宮島達男の作品の意図を理解させられます。

20世紀最後のヴェネチアビエンナーレの日本館の展示を担当した彼は「20世紀」というものを作品で見せたのです。20世紀は科学の時代でした。その発達によって、大量の人々の死がありました。日本に落とされた原爆に代表される核兵器です。美しい青色の点滅に浸っていると突然訪れる暗闇は、まさに原爆を象徴していました。子供から大人まで、まったく予期することもできずに死が我が身に降りかかりました。「メガ・デス」です。しかしそれでいて、青色の数字が点滅してゆく様子は、静かで力強く、美しいものでした。数字が数字ではなく、ついては消えてゆく泡のような、あるいは瞬く星のようなもの、さらにいえば、人間の生命を象徴していました。まさに宮島達男の代表作となった展示だったと思います。