求められる「人材情報濃密企業」への再生

人材のマネジメントには、能力や成果の評価などの職務と関わる側面だけではなく、人としての側面までも含んだ情報が必要なのである。以前はこうした人材情報が比較的濃密だったように思う。もちろん、働く人から見ると、意思決定プロセスや情報自体が開示されてこなかった点で、疑心暗鬼に陥ったり、決定プロセスへの参画感が生まれなかったりすることに対して不満をもつ場合もあった。しかし、丁寧にやれば、こうした意思決定は、組織と人がともに幸せになる異動、昇進、昇給などにつながっていた。今、多くの企業でこうした濃密な情報を収集し、活用する組織能力が減退しているように思うのは私だけだろうか。

また、人材情報劣化のなかで逆にこれまで企業があまり関心をもってこなかった人材情報に対するニーズも増加している。例えば、一人ひとりがもつキャリアについての計画。キャリア自律が進んだ現在、その人がもつキャリア目標や価値観、プライドの源泉なども重要な情報となる。いわゆるキャリアアンカー(働く人が自らのキャリアを選択する際に大切にする価値観や欲求のこと。碇のようなもの)を従業員本人に確認させる努力をするケースは多いが、企業として把握することも大切になってきた。ようやく働く人の間にも、キャリア開発を自分の手で、という自律的な考え方が浸透し、望むものが与えられないと他の企業に移る傾向も増えてきたからだ。

例えば、(独)労働政策研究・研修機構が1999年から4000人以上を対象に継続的に行っているアンケートによると、雇用慣行の見直しの方向として、能力開発を企業に任せるのではなく、自己啓発型で行うことへの賛成の割合は70%以上であり、99年からほぼずっと上昇している。

また最近では本人が望むワークライフバランスに関する情報も大切だ。現在ワークライフバランスへの関心が高まるなかで、結構企業は、従業員一人ひとりのワークとライフのバランスに関する考え方や、計画を知ろうとしない。個人情報だからという言い訳も成り立つだろうが、多くの企業で従業員がワークライフバランスに関わる選択をするまでわからないことが多い。例えば、次期は管理職へ昇進させようと思っていた女性人材が、妊娠し、「突然」長期の育児休暇を申請するというとき、本人にとっては全く突然ではないかもしれないのである。

働く人の趣味やそれによって必要になる休暇などについても、モチベーション管理上、知っておくことは有益かもしれない。昔のように仕事が趣味ではないのである。何がその人の喜びの源泉となるかは聞いてみないとわからない。例えば、「釣りバカ日誌」のハマちゃんのマネジメントには、趣味の情報が不可欠だ。もちろん、現場では必要性からこうした情報をすでに収集しているケースも多いのだろうが、経営としてそうした情報をシステマティックに収集する企業は少ない。現在、個人に関する情報が集まりにくくなってくるなかで、新たな種類の人材情報に関する必要性が高まっているのである。

人を中核とした経営では、やや聞こえは悪いが、丁寧な人間観察とそれに基づく人材情報の蓄積はより効果的な人材経営のために必要なのである。言い方を変えれば、「人材情報貧困」企業から、「人材情報濃密」企業への再生が求められている。