2012年8月3日(金)

冬瓜――暑気払い効果もあるトウガンでおなかからクールビズ

dancyu 2012年8月号

福地享子=文
【つくり方】
トウガンは5cm角に切って、厚く皮をむく。たっぷりの水から骨付き鶏肉を煮て、アクをこまめにすくい、トウガンを入れ、塩で調味。トウガンを透明になるまで煮る。その後、冷蔵庫で汁ごと冷やし、スープをゼリー状に。黒胡椒か粉山椒を薬味に食べる。

トウガンの皮をむいていた。ン、この匂いは……? あるかなきかの微かな匂い。記憶の底をまさぐり、やっと思い出した。草いきれ。炎天下、夏草が生い茂ったなかに分け入ったときのあの匂い。

トウガンは、東南アジアが原産地。焼けつく太陽と猛々(たけだけ)しくのびた雑草と。そんな大地を開いて生まれた野菜。実にはほとんど味も香りもないけど、皮に隠された密やかな香りが、遠い昔を教えてくれた。こういう発見て、かなりうれしい。

トウガンの初物は沖縄宮古島からやってくる。そして梅雨前、愛知県さらに関東近県からの入荷が続き、本格的なシーズンに。なかでも、愛知県産は皮の艶まで申し分なく料亭さんの好む逸品だ。

代表的な料理は、だしで煮含め、ひき肉やかに肉などのあんをかけたもの。でも、つくってみると、だしが問題で、かつぶしと昆布でていねいに、かつ濃いめにとらなきゃ、アァおいしい、とはいかない。さらに、あんも用意するとなると、猛暑日に、そんなことやってられますかってなことになる。

たどりついたのは、骨つきの鶏肉といっしょのスープ仕立て。手羽中半割りとかいって、ホラ、骨に申しわけ程度、肉がくっついたアレ。それを水から煮て、ゴロリと切ったトウガンを入れ、トウガンが透きとおったら、できあがり。おっと、まだ完全じゃない。冷蔵庫で一晩、冷やすのだ。すると、なんということか、スープがプルプルゼリーに変身するのだ。ここを食べる、ゼリーをからませながら。トロトロヒンヤリ、トウガンからスープがジュワリ。口に涼風が広がる。

というわけで、いつも鍋いっぱいつくり、2~3日は食べる。の、つもりだが、さすが3日目は。したり顔で夫が言う。

「ビシソワーズみたいにしたら」

アラ、ウリソワーズね。いけるかも。トウガンだけを牛乳といっしょにミキサーへ。ナーンダ、ただの水割り牛乳じゃない。そういえばトウガンは9割以上が水分なのだった。夫が澄まして言う。

「ひとを信じちゃいけないよ」

うちの家訓を忘れていた私がバカだった。頼るは、料理のわかる男ともだちだ。

「ガスパッチョに入れたら」

これはいい。真っ赤なスープにプカリと浮かぶトウガン。夕焼け色のおいしいリゾートアイランドのできあがりだ。

延長で冷や汁もいいな。これは宮崎県の夏の郷土料理。東京のアンテナショップでも大人気の、冷たいみそ汁だ。

そもそもがおとなしい味だから、工夫しがいがあって。楽しいんだな、これが。漢方では、トウガンには暑気を払う効能があるとか。節電がさらに厳しくなる今年、おなかからもクールビズですね。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。