田崎 健太(たざき・けんた)
1968年、京都市生まれ。早稲田大学卒業後、小学館に入社。「週刊ポスト」編集部などを経て、99年末に退社。スポーツを中心にノンフィクションを手がける。『CUBA ユーウツな楽園』『W杯に群がる男たち』『辺境遊記』など著書多数。

「20代で誰と出会うか。それで、その後の生き方は大体決まる。僕にとっては彼だった。彼と出会ったことで、大変な経験もしたけど、僕の人生は面白くなった」

“彼”とは、かつて大麻事件を起こし、「今後はパンツをはかない」という台詞を残した名優、故・勝新太郎。当時20代半ばの田崎健太氏は「週刊ポスト」の編集者で、勝の連載の担当をたまたま命ぜられた。勝の代表作『座頭市』シリーズすら満足に観ていなかった田崎氏にとって、勝は、銀幕の俳優というよりワイドショーの人。緊張より好奇心が先行する相手だった。

週1回、2ページの担当にもかかわらず、あるときは、ほぼ毎日勝邸に通い、音楽や映画の話、そして酒や食事を共にした。そこで見えたのは、ワイドショーからは読み取れなかった、彼の“素顔”だった。

「銀座のクラブや料亭に行くと、1万円札が入った袋がスッと出てくる。驚いたのは、トンカツ屋でもまったく変わらない。同じ額のチップを払うんですよ」女遊び、酒、博打。「豪放磊落」や「天衣無縫」といった表現がピタリとくる勝らしいエピソードだが、事態は少々違うらしい。というのも、彼にとってのチップは「見栄や道楽ではない」。世の中、人間、男女間の機微を教えてもらい、役者としての幅を広げる、そのための“勉強代”を意味するのだ。

また、晩年のガン告知会見で披露した、ビールを飲み、煙草をふかす姿も、勝流の“美学”。

「人を楽しませるために、自らは道化を演じる。勝新太郎とは、そういう人でした。勝さんが、それで満足しているならいいかと思っていましたが、次第に映画からは遠のいた。やはり寂しかったのでしょう。他人の作品を一緒に観ては、『俺なら、もっと面白くつくれるのになあ』と言っていましたから。あと一本だけでいい。勝さんに監督をやらせてあげたかった」

本書には、勝の側近であった勝プロダクションのスタッフをはじめ、故・原田芳雄、石橋蓮司など勝と昵懇の仲にあった俳優らの証言を基に、勝の素顔が綴られている。映画史としても骨のある読み物だが、田崎氏は、「むしろ勝新太郎を知らない世代に読んでほしい」と言う。

「100本以上の映画に出演しながらも死の直前まで満足できなかった勝さんを見て、僕は一生、物書きとして活字で表現していこうと思った。勝新太郎との“偶然”の出会いが、そう決意させてくれたんです。偶然とは、じつに深くて面白い。その面白さを感じてもらいたいですね」