会社から定期健康診断を受けるように指示がきたが、目の前の仕事で忙しく、とても受診している暇はないという人もいるだろう。しかし、面倒でもサボッてはいけない。健康診断は、労働者の権利ではなく義務だからだ。

事業者は労働者に対して、年1回、定期的に、医師による健康診断を行う義務を負う。ただ、義務が課せられているのは事業者だけではない。労働者も、健康診断を受ける義務を負っている。自分の好きな病院で受診することも可能だが、その場合も結果を事業者に書面で提出する必要がある。違反しても罰則はないが、だからといって受診しなくていいことにはならない。

行政通達によると、健康診断の費用は会社が負担すべきだとされている。ただし、健康診断を行っている時間は、必ずしも法的に有給とする義務はない。たとえば健康診断に半日かかったら、会社は半休扱いにしたり、その時間の賃金をカットしてもいい。労働者としては納得いかないが、社会保険労務士の横井祐氏は次のように解説する。

「一般的な健康診断について、会社に健康診断時の賃金を支払う義務が課されていないのも、健康診断に関して労使双方が義務を負っているからです。また、会社で働いていようといまいと、人であれば自らの健康管理というものについては、普通に行われてしかるべきである、と考えることもできます。私の知る会社は、所定休日の土曜日に受診を指示。賃金を支払っていませんが、法的に問題はありません。このあたりは労使で話し合って決めるべきです」

健康診断を受けないと、相応のリスクもある。過労で倒れるなどの業務災害に見舞われた場合、一般的には労災保険給付の申請をしたり、会社側に損害賠償請求を行うことになる。しかし法に定められた健康診断を受けていないと、過失相殺されて労働者側に不利に働くケースもあるのだ。

一方、会社側のリスクはどうか。常時50人以上の労働者を使用している事業者は、労働基準監督署に健康診断の結果を報告する義務がある。実施報告書の人数と、実際に受診すべき人数が合わない場合、労基署から勧告や指導が入る可能性もある。そうなると、面倒な手続きが一気に増える。また、社員に健康診断を受けさせる義務を果たしていないとみなされると、事業者は50万円以下の罰金に処される。どこから法令違反になるのかはケースバイケースだが、横井氏の見解はこうだ。

「1回、スケジュール調整をして、あとは知らん顔という程度では、義務を果たしたとは認められづらい。社員がすっぽかしたら、少なくとも何回かは調整が必要。そうした事業者としての義務を果たそうとした努力の経緯を労基署に説明できないと、違反とされるおそれがあります」

こうしたリスクを考えると、健康診断を渋る社員にも、何とか受診させたいところだ。そのためには所定時間内で会社が賃金を負担するなど、社員が受診しやすい環境を整えることが第一だろう。

「就業規則に『社員は健康の維持に努め、会社の指定する医師の診断を受けなければならない』と明記してもいいと思います。就業規則に定めがあれば、それを根拠として社員に働きかけることが可能。健康診断の受診拒否を理由として処分できるとしても、処分の程度は比較的低いものと考えるのが一般的ですが、十分に効果があるはずです」(横井氏)