【渡部】ほめる側が「あなたがこうしたことによって、周りがこれだけ変わったんですよ」と示せば、調子に乗るだけでは終わらないはずですよね。

僕なんかは自分がほめられると、ついつい次もその期待に応えようとする。心理学で言うレッテル効果と呼ばれるパターンにまんまとはまる。このレッテル効果を生かせば、「次にまたこれをさせたいからほめる」といったほめ技術につながります。たとえば、ふだん料理を作らない奥さんに、今後はできるだけ料理を作ってほしいと思ったら、たまたま料理を作ってくれた機会を逃さず、すごくほめるといい。

【西村】「ほめるは他人のためならず」とでも言いましょうか、ほめることによって一番恩恵を受けるのは自分だったりしますよね。周りの人をほめ続けると、自分の周りでいいことがいっぱい起きるようになる。それは、ほめることによって最高の返事、すなわち“行動”を相手から引き出していることにほかなりません。反対に、ダメなところばかりを指摘しても、相手はなかなか行動を変えようとはしません。飲食店の覆面調査でダメ出しに主眼を置いた調査から、ほめることに主眼を置いた調査に変えたところ、対象店舗の売り上げは平均で1.2倍も伸びました。なかには半年で1.6倍になった事例もたくさん出たのです。

【渡部】ダメ出しのポイントを探す作業と、ほめるポイントを探す作業はじつは同じで、それをどちらの方向で表現するかの違いにすぎないから、そのような方向転換ができたのでしょうね。

僕はお笑いの中でもツッコミ役なので、人の欠点やアラを探すことを職業にしています。ただ、本質を突く作業という意味では、ほめるポイントを探す作業と全く同じなんです。だからホメ渡部というキャラクターが僕にうまくはまったのだと思います。

【西村】“ほめる”と“叱る”、あるいは“けなす”の根っこは一緒だと、僕も感じます。ホメ渡部の書いた本の中ですごく面白いなと思ったのが、まさに「ホメ渡部じゃなく、ケナシ渡部でも行けた」という部分。つまり、あるターゲットに対しプラスに持ち上げることも、マイナスに貶めることもできるけど、その効果は全く違う。

ただ、放っておいても人は、他人の欠点に目がいきがちです。僕の経験では「相手のことを考えて」とか「相手にこうなってほしい」という想いが強い人ほど、ついついマイナス方向の指摘をしてしまいがち。でも、逆にプラス方向に持ち上げてみると、思ってもみない効果がさらに生まれるのです。

【渡部】「ポジ出し」という言葉が若者の間で流行っているくらいですからね。僕のやり方は、まず特徴的なところを探す。それが見当たらないときは、その人がなかなか継続できなかったり、実行できなかったりするところを探す。それでも見つからない場合は、その人より自分を下げる。