イケアの強みは「商品を売るだけでなく、『それを使った生活』を提案すること」と強調する。店内ではパネルやポスターで家具の活用法などが解説されている。

この「生活提案」はイケアの特徴だ。同じベッドでもシーツや枕を替えるだけで、若者向けにも大人向けにもなる例や、照明の違いだけで部屋の雰囲気が変わる例も陳列。これは部屋の模様替えが少ない日本の消費者に、気づきを与える狙いがある。本棚には実際に雑誌や本を、衣装ケースには洋服を入れて、来店客に実感させる。

子供を北京に置いての単身赴任であるグロリアさん。「店舗は本当に子供みたい。それぞれキャラクターは違うけど日々成長していく」と笑顔を浮かべた。


組み立て初心者のメンバーも、説明書を見ながら作業を進める。

ビルドアップチームは、日本のスタッフに対して指示する立場ではなく、逆に受け入れ側がすべてを指示するわけでもない。「一緒に取り組む」もイケアスタンダードだという。

海外スタッフの受け入れ側責任者だった佐藤さん。「グロリアのような経験豊富なメンバーをどう配置して、何を託すかが、一番大きなチャレンジでした。彼女たちからは多くのことを学びました。たとえば細部にこだわり、あれこれ修正したくなりがちな私たちに、一番大切なことに目を向けてシンプルにやることを教えてくれました。『簡潔は美徳』もイケアバリューの1つです」と説明する。

「私は店内物流や商品流通の理想がありましたが、『お客さま視点での小売業』の原点を考え、それをあきらめたこともありました」と高井宏樹さんは本音を明かす。

辻さんは「私にとっては4店舗目の開業ですが、優先順位をつけて決定するスピードは、どの店よりも速かった。具体的な指示がないと(未経験者が多い)コワーカーもストレスがたまるので」と話す。時にはこだわりを捨てて、簡潔に進めることが店舗づくりのコツのようだ。

3月30日、役割を終えたメンバーはそれぞれの国へと戻っていった。

※すべて雑誌掲載当時

(笹山明浩=撮影)
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