08年3月、蒲島郁夫東大教授が熊本県知事に当選した。その背景に氏の選挙ポスター研究ゼミの成果があったことはあまり知られていない。蒲島氏が実践した秘策をここに明らかにする。

落ちこぼれの私が熊本県知事選挙で当選

去る3月23日の熊本県知事選挙に勝利して、私は知事となった。それまでの東大法学部教授の職を辞して、背水の陣で臨んだ選挙だった。結果だけを見ると、総投票数の47%に当たる34万票弱を獲得し、次点に20万票の差をつけての圧勝だったが、選挙戦は予断を許さない大激戦といえた。

現職知事が不出馬を表明したことから、私も含めて5人の保守系新人候補が選挙に立った。私以外は、元衆議院議員が2名、消防庁次長を務めた元キャリア官僚、そして民主党推薦の元熊本県地域振興部長の計4名である。

いずれも強敵で、私の立候補表明は1月11日と1番遅く、圧倒的に不利な状況での立候補となった。

選挙戦はいわば、自分という人間を売り込むプレゼンテーションである。1人でも多くの選挙民に、自分を知ってもらい、自分を支持してもらわなければ勝てない。大学で選挙研究を専門としていた私自身は、そのことをいやと言うほどわかっていた。

私は自民党の強い勧めを固辞して無所属で立候補したが、これが市民グループを結集させることにつながった。またそれにもかかわらず自民党県議団は一致団結して私を支えてくれた。

選挙戦では3段階のアピールを考え、まず私の経歴を訴えた。

私の人生は平坦なものではなかった。熊本県山鹿市で生まれ、高校をビリに近い成績で卒業し、いったん自動車会社に就職したが挫折、地元の農協に再就職して農業研修生として渡米したのが21歳のときだ。アメリカでは厳しい農作業を体験した。その後24歳でネブラスカ大学に入学し、ハーバード大学大学院を修了。帰国後、筑波大学講師などを経て、東大教授になった。