仮説を立て、人脈を築いて準備を整えていざ商談へ。アポイントは基本的にメールでとる。要件の概要をあらかじめ伝えて、相手の返信を待つ。

「以前、提案に対する返信が来ないときさらにプッシュして破談になった苦い経験があるので慎重に運んでいます。返信の速さや日程の設定などで相手の忙しさはある程度読み取れますからね。商談の際は、ほかの部署にも顔を出して余裕のありそうな人とは打ち合わせをさせてもらっています」

つい最近、藤本さんの周到なプランが実際に実を結んだ。

「ある企業で紙資料をデジタル化するシステムが採用されました。これは『資料が多すぎて整理に困っているのではないか』という仮説から出発。キーマンが時間を取ってくれないときは無理せず、すっと引きました。そして、あるときにやっと“座って”くれたんです。そこでとうとう『確かに困っているけど、他の部署との兼ね合いがある』という本音を引き出すことができました。当の部署のことは、私のほうが詳しいほど情報を聞いていたので、その後は調整方法などを提案してとんとん拍子に話が進みました」

準備をこつこつ積み重ねたうえで、機を見て攻めるときは押し、引くときはあっさり引く。飛び込み営業で培われたのか、相手の顔色を見れば、話を聞く余裕のあるなしはわかるという。

「タイミングには気をつけています。このケースのように、ずっと忙しそうにしていた人がきちんと時間を取ってくれたときは、こちらの提案に興味を持ってくれた証拠。チャンスなので、それまで温めてきたことをすべて出し切ります」

>>田原さんの分析

やみくもに数をこなすのではなく、事前に相手先の情報を収集して分析する。キーマンのいる部署や組織のあり方を把握、課題を浮き彫りにしてから戦略を組み立てる。これはすべての営業に通じる有効なアプローチ方法でしょう。ただし、いくら立派な企画書ができても相手に聞く耳がなかったら意味がありません。

その点、藤本さんは実に配慮が行き届いています。まずメールのやり取りでだいたいの感触をつかみ、対面しても相手の状況を見ながら話を進める。状況を俯瞰する余裕を持っているのでタイミングも逃さない。藤本さんの熱心さと繊細さは、クライアントにとっても「自社の売り上げを伸ばしてくれるパートナー」として映ることでしょう。大型商談がまとまったのは当然の結果ですね。

分析:田原祐子(たはら・ゆうこ)/営業戦略コンサルタント。ベーシック代表。オール電化住宅ブームに貢献した陰の仕掛け人。『あなたは、部下のやる気をなくさせていませんか?』など著書多数。
(ベーシック代表 田原祐子=分析 小川 聡=撮影)