「従来戦術の延長」は「大企業病」なのか

先日、ビジネススクールの教え子の一人で、若手コンサルタントとして活躍している人(以下、仮にTさんとします)が、こんな悩みを抱えていました。

Tさんは現在、複数事業を抱える有数の大企業をクライアントとしており、とある部門の成長戦略の立案を支援しています。今日は、クライアントのキーパーソンである事業部長さんとの定例議論の日。プロジェクトも最終局面に差し掛かってきており、いよいよ採るべき成長戦略オプションの最終評価をしなければなりません。プロジェクトメンバーの数ヶ月に及ぶハードワークのおかげで、当初曖昧模糊としていた「市場の魅力度」や「優位性構築の可能性」も一定程度明らかとなり、採るべき戦略オプションはAとBの2つに絞り込まれています。



Tさん:
「想定される市場の成長性からも、先行者優位の経済性がはたらきやすい事業特性からも、戦略オプションAを選択するのが現時点において最善と考えます。」

事業部長:「う~ん。Tさんの言うように、戦略オプションAが良さそうだ、っていうのは頭ではなんとなく分かっているんだけれど、戦略オプションBのほうが経営層に説明しやすいし、理解も得られやすいんですよね。それに、Bであれば、その実行方法もみな身体で分かっているから、実現可能性が高いことは間違いないですし。仮に常務会にAを上申したとして、却下されたら一歩も前進できないわけです。それなら、Bを選択して少しでも前に進めたほうがよい、とも思うんですよ。」

Tさん(の心の中):(確かに、戦略オプションBを選びたくなる気持ちは分かる。しかし、外部環境が急速に変化しているなかで、旧態依然とした従来戦術の延長に近しいBを採ったところで、「ジリ貧」から逃れられないのは明らかでしょう。それでも楽なほうに流されてしまうとは、これが「大企業病」か……)


 

コンサルタントとして、極めてつらい局面です。大企業であればあるほど、過去の経営者への配慮や、大企業としてのプライドが邪魔をします。大胆な戦略変更に際して、社内説得に大きなエネルギーを必要とします。私自身、類似の経験を数多くしてきましたし、そのたびに忸怩たる思いを感じてきました。しかし、真のプロフェッショナルであれば、いかなるときも「正しいこと」を言わなければなりません。「正しいこと」を言わずして、報酬を得る資格はありません。戦略オプションAが正しい、と信ずるのであれば、この事業部長を正面から説得すべきですし、さもなくば、事業部長と一緒に経営層を直接説得する場を設定してもらうよう努力すべきでしょう。黙って引き下がるだけでは、(厳しい言い方をすれば、)Tさんはプロフェッショナルとして未熟である、ということに他なりません。