揺るぎない意志がグランドセイコーの伝統をつくる。
機械式ムーブメント復活の舞台裏にそれを見る。

キャリバー「9S」の誕生から10年後の2008年に、さらなる改良を施して発表された「9S65」。平均日差(静的精度)は+5~-3秒、シングルバレルながら持続時間は72時間を誇る。

海外では“クオーツショック”と呼ばれるほど、セイコーが発表したクオーツ時計の衝撃は大きかった。高性能で生産効率が高いクオーツは、1969年に発売されると瞬く間に世界中を席巻。一方で機械式時計は次第に影を潜めていった。かつて機械式時計でスイスの精度コンクールの上位を独占したセイコーも、70年代半ばを最後にクオーツに全面シフト。再び国内で機械式時計の製造を開始するのはそれから約20年後のことである。

「電池式のクオーツはぜんまいの巻き上げはもちろん、時刻合わせを行う機会も少ないので時計を操る喜びがない。90年代に入るとスイスでは機械式復活の兆しが見られましたが、そうした気運も相まって人と時計の接点を見直したいという思いがありました」

重城幸一郎さん
セイコーインスツル、ムーブメント事業部時計設計部。1991年入社。94年より機械式ムーブメント開発に設計者として参画。2008 年発表のキャリバー「9S65」の設計も担当。

当時をそう回顧するのはグランドセイコー(以下GS)の機械式時計復活に尽力した重城幸一郎さん。まずは過去の機械式ムーブメントの復刻に奔走した。

「残された資料とOBのアドバイスをもとに昔のムーブメントを再現しましたが、それではいかに改良を加えてもGSに搭載できる性能に辿り着けなかった。GSには一般的に高性能とされているものの“1つ上”をいくという譲れないポリシーがあったからです」

95年、GS向けのムーブメント開発がスタート。高精度の証しとされるスイスクロノメーター規格を超える精度と、当時の平均を10時間ほど上回る50時間以上の持続時間が満たすべき条件となった。