デジタル一本化は非効率で無意味

仕事を加速させる「レファ本」棚/文章における正確さはそのまま説得力に繋がる。ネット情報はエディターシップの欠如と個人情報のデタラメさという致命的な欠点がある。具体的な書名は、『使えるレファ本150選』(ちくま新書)で紹介している。

探し物に時間がかかって集中力が途切れてしまう――。誰しも経験があるでしょうが、これほど大きなロスはありません。23年前、ジャーナリストとして仕事場を設けたときに最重要の課題となったのが、文献や資料を探す時間の短縮でした。

いま、私の書斎では最短2秒、最悪でも5秒までに必要な資料へアクセスできます。執筆中の仕事に関する資料はデスクの足元に集めていますし、これから取りかかるものは優先順位に応じて書棚に並べています。切り抜きやメモを入れたファイル袋と関連書籍は、仕事ごとにまとめておく。そして、1日の最後にはすべて所定の位置に戻し、資料は衣装ケースに収納して倉庫にしまいます。

きれい好きなわけでも見栄えを気にしているわけでもありません。私は記憶力が悪いので、何がどこにあるか忘れてしまう。これも必要に迫られてつくり上げた仕組みです。皮肉ではなく、記憶力に自信がある人ほどデスクまわりが乱雑になるはずです。どこに何があるか覚えていれば、整頓の必要はありませんから。

資料整理で重宝するツールの一つがコピー機です。書籍から気になる部分を抜粋するのも簡単ですし、ジャンルの分類に迷う資料はコピーして複数の袋に入れれば片付きます。ただし手軽に使うにはウオームアップタイムがゼロ、つまりスイッチオンですぐに使える機種である必要があります。私が愛用しているのは、キヤノンの「ファミリーコピア(またはミニコピア)」のシリーズです。

総デジタル化はナンセンス/『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫)の執筆時に使った裁判資料の一部。貴重な資料はデジタル化しづらいものが多い。

全資料のデジタル化を提唱している人もいますが、デジタルへの一元化は、断じて効率的ではないと考えています。現在の蔵書は約2万冊。過去の仕事で参考にした本はすべて保管しています。それに加え、裁判調書など何メートルもの高さになる紙の資料がいくつもある。それらをすべてスキャンすることは現実的ではありませんし、無意味です。資料の置き場がなくて、やむなくデジタル化するというのならわかりますが、一元化が目的になっては本末転倒です。

いまのところ必要な情報を即座に一覧できるという点で、紙に優る資料はありません。ネットは速報性に優れているものの不正確な情報が少なくない。やはり専門家やプロの編集者が携わった書籍が基本的な資料であるのは変わらないし、辞書や辞典、白書などの「レファ本」もまだまだ手放せません。もちろん今後、デジタル資料は増えていくでしょう。私も、裁判の判例や学術論文、新聞記事などのデータベースには毎月数万円を支払っています。いくつかの「レファ本」もデータのほうが便利になってきました。ただ、デジタルですべて済むという人は、その程度の仕事しかできない人だといえます。