第一に「まず実践」だ。ただ、実践といっても、むやみやたらに事を進めてよいわけではない。現実を見、理にかなった活動を行うことが肝要だ。つまり実践とは、現実と理論が融合したものにほかならない。

第二に柔軟さ。環境に応じて、すでにある資源を読み替える。また資源の読み替えに応じて環境を読み替える、その柔軟さである。レヴィ=ストロースが『野生の思考』で言ったブリコラージュ(器用仕事)。

第三は直感。何かのときに、役立つ資源が手元にあってほしい。そのために、「これは必要になるはず」という直感を研ぎ澄ませる。少なくとも、現在の状況に照らして要不要を即断しない。いずれも難しそうに見えるが、レヴィ=ストロースが言うように、私たちが生まれつきもっている力のはずだ。

第二の価値ある志向は、効率ではなく有効性への志向だ。人を減らせば効率が上がる。わかった話だが、人がいなくなる組織が最良の組織というのだから、工場や倉庫等一部の組織にしか通用しない。逆に、組織の「実り」、それも「見えない実り」を大きくしようというのが有効性志向だ。

組織の実りを大きくする要件は、「人」資源の充実。組織に新たな実りをつくり出すのは人しかない。人が増え、交流が増えると、組織の中に新しい発想、創意工夫が生まれる。危機に対しても、人の潜在した力を活かしてそれをチャンスに変えることもできる。

高度成長期を支えた大規模製造企業は、われわれの世界から遠のく。その時代の、「効率重視で、見えるものしか信じない」経営者が住むところは多くない。代わって、「見えない可能性に賭け、人と人との交流の中で人に潜在する力の芽吹きに賭ける」経営者が場を占める。

ロバストさと有効性を志向した経営スタイル。それは、組織の成長を導くだけでなく、不意の環境変化に対する柔軟な対応をも可能にする。亀田総合病院のわが国医療業界における存在感と今回の被災地支援の活躍ぶりを重ね合わせながら、そうした経営スタイルの力強さをあらためて認識した次第。