叩き込むんじゃない、「気付かせる」んや

タチが悪いのが「すぐ諦めるチップ」。昭和のチップを一回抜くのに失敗しただけで「難しいわ!」とすぐ諦めてしまう。

ただ、親には被害者の一面もあるよね。僕は「上官教育」って呼んでるけど、今の親の世代は「上が絶対」っていう教育で洗脳されてきた。昭和の親は「そうやって根性・忍耐・努力を学んだ」って言うけど、そういう方法でしか学ばれへんのかな? っちゅう話なんよね。怒鳴らなくても子どもが自立できる教育の仕方があるのに、親がそれを知らんのよね。

要は、叩き込むんじゃなくて「気付かせる」ことや。僕は「怒るは感情、叱るは注意。何より大切“気付かせる”」って標語もつくったんよ。どんな人間にもいいところはある。自信を失ってる子どもは、自分にはいいところがないって勘違いしてんよね。じーっと辛抱強く観察して、いいところを見つけ出して、指し示してあげる。押し付けるんじゃなくて、子ども自身が「オレ、いけてるな」って思えるよう、気付くように導くんよ。「自信を持て」なんて100ぺん言うても、“北風と太陽”の北風と同じやねん。

都内の小学校のPTA会長だった頃、運動会の徒競走で4位に入った子を呼び止めたことがある。「○○くん! よかったなあ」「えーっ、4位やで」「去年5位やろ。でも今年は走り方変わった。太腿上がっとった」「マジ?」「今度はな、太腿下ろしたら地面を思い切り蹴っていけ。そしたら来年3位や」。すると、笑顔で地面を思いきり蹴って去っていった。

こういうふうに、チャンスをどうつかんで、どう接すればいいかを考えたら見えてくるんよね。話をするチャンスではなくて、子どもの話を聞くチャンスのこと。何か教えてやろうとするんじゃないんよ。「お父さんはこう思う。おまえどう思う?」が会話の1セット。「○○や。わかったか」では“昭和”。

人の心には鍋があるって例えると、この方法はわかりやすいかな? 生まれた頃は愛の火を受けて水が沸騰してる。ところが、火が弱まったり消えたりすると鍋は冷め、ときに憎悪の氷がぶち込まれたり凍ったりする。でも、一回冷めてもいい。ひたすら熱し続けるんです。見かけがなかなか変わらなくても、何かきっかけをつくりながら辛抱強く観察し、声をかけ続ける。そして、「おまえを愛してる」って照れずに伝え続けたらええ。ある日沸点にきたら、突然ポロッと話し始めますよ。僕はそう信じてます。

※すべて雑誌掲載当時

(プレジデント編集部 西川修一=構成 若杉憲司、小原孝博=撮影)
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